サン光

「「つ、かれた」」

どさ、と二つ分の衝撃音。
俺と彼女の声も同じくして部屋に響く。
今日の依頼は随分と歩かされたものだと、俺は隣で座り込んでいる、今回共に任務をこなした相方を見た。
俺と比べる事自体間違っているのだが、体力がそこまであるとは言えない彼女には大分辛かっただろう。

「おい、寝るなよ」

自分の部屋に帰ってきた安堵からか、座ったままの状態でこくりこくりと船を漕ぎはじめたものだから、その細い肩を掴み少しだけ強く揺すった。
「んー」だの「ぁー」だの、生返事ではあるが、返事を返してくる様に健気さは感じはするが、このお世辞にも綺麗とは言えない泥まみれの姿でベッドに寝かせてやる事はできない。
掃除するのが大変なんだ。
やむを得ず彼女を抱え、微睡みのお姫様を浴室へと運ぶ。
休むにもまずは体を清めるとしよう。


――――


「サンクレッドに体洗ってもらうの、気持ちよくて好き」

「それは何より」

大切なお姫様は、身を清め終わる頃には意識も戻ってきたようで、ほこほこと程よく湯だった頬を緩めてベッドの上でころりと転がった。
誠心誠意綺麗にさせてもらった身としては、何よりの言葉もいただけた事だし。
最後にもうひとつ、御奉仕致するとしよう。

「わっ」

驚く彼女を他所に、俺は剥き出しの細く、それでも旅をしてきて無駄がない引き締まったその足を一つ持ち上げる。

「お、絶景」

「ばか…」

突然足を掬われたにもかかわらず、可愛い悪態はつきはするものの、暴れもしない絶対の信頼に胸を焦がしつつ俺が背を丸めた所で漸く短い静止の声が上がった。

「お疲れ様、よく頑張ったな」

まるで指先にするのと同じように、今日一日中歩き詰めでへとへとになったであろうその足の先に、労いの想いを込めて唇を落とす。

「なんでそこに…」

恨みがましい色が乗った声に、ちらりと視線を上げれば声と同じように非難めいた瞳とぶつかった。
いや、これはそうだな――

「拗ねるなよ」

口より先にこっちにしたのが気に食わなかったんだろうと察した俺が手を伸ばせば、待っていたかのように瞳が隠される。
愛おしさに指の腹で閉じられた瞼をなぞり、唇へ触れ、求められるがままにキスをした。

「機嫌は直りましたかな?」

「ん、ふふ」

そもそも本気で拗ねていた訳でもなかったとわかっていたが、機嫌を伺えば可笑しそうに笑って答えてくれる。
そうして俺はやっと本来の御奉仕を始める為に、彼女の足に指を這わす。

「わ、きもちい…」

指を食い込ませ強弱を付けてマッサージをすれば、とろりと顔が溶ける彼女に、俺はもう一度「お疲れ様」と微笑んでみせた。

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