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サン光

ぱらりと最後のページを捲り、間もなく裏表紙を閉じた私は、背後で背もたれに徹してくれていたサンクレッドを振り返り見る。
彼も彼で同じ様に本を読んでいて、穏やかな静寂を二人揃って満喫していた。
そんな中、本を読み終えた私は呼吸に合わせて緩く上下に揺れる背中に頭を寄せて耳をくっつける。
ペタリと貼り付けた薄い耳に、体を介して少しだけこもった小さな笑い声が届いた。
ヒューランよりもよく音を拾うこの尖った獣の耳は、とくりとくりと彼の心音もしっかりと捉える。ゆっくりと心地の良い、生きている音。
目の前の硬く鍛えられた腹に腕を回し、己の手首を掴めば指先からは鼓動と連動した己の脈が伝わった。

「どうした?」

振り返るように体を動かしはするが、振り払ってまで向き直す様な事はしてこなくて、好きにさせてくれているのだろうと甘やかされているのを感じる。
その広い背中に耳をつけたまま、こめかみを擦り寄せて短く息を漏らすように私は笑った。

「生きていて、よかったなと思って」

貴方も、私も。
色々な事が起きて、貴方は弟達と共にラグナロクに乗って遠く遠く…空よりも遠くへ世界を救うために飛び立ち、一時はその姿すら消えてしまったのだと、全てを終えて帰ってきてから聞いた時は血の気が引いて倒れそうになったのを今でも鮮明に覚えている。
しかし、サンクレッドがそうしてくれなければ、この星で待つ私達も死んでいたのだろう。
どうしてそんな無茶を、と強く言えないのは結果としていい方に収まってしまったから。
それでもやはり文句の一つや二つや三つは言ってやったのだけれども。

「生きてて、よかった…ここに、いる」

生きている音を感じ、抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
目を伏せ、吐息と共に繰り返して吐き出せば、サンクレッドの手が私の手首を掴んだ。

「――、あぁ」

「わ、ぁっ」

そうして掴んだ大きな手が、背中にくっついていた私をやんわりと引っぱりだし、胡座をかいていたその真ん中に収納する。

「サン、んむっ」

名を呼ぼうと口を開けば、ほんの少しだけ乱暴に唇で止められた。
触れるだけのそれは、すぐに離れて今度は鼻先同士が触れ合う。
くい、と器用に眉を片方だけ持ち上げた彼はそのまま真正面から私を抱きしめ、首元にリップ音を落とす。

「背中を愛してもらうのも、守り手としては嬉しいが…俺としては真正面からも愛して欲しいんだがな」

そう拗ねたように見せられてしまえば、応えない訳にはいかない。
ゆるりと抱き締める腕を尾で撫でれば、その指先が尾先を絡め取る。

「……生きてここにいるって実感を、しっかりとわからせてやるとするか」

くつり。喉奥で笑ったサンクレッドは、どうやらそういうご気分になったようで、尻尾で遊んでいたその指が毛並みを逆撫でる。

「ん、ぅ…できれば…程々に」

ぞわぞわとした感覚に、思わず声を漏らせば火がついた瞳がぎらりと輝く。
そんな瞳をさせながらも、彼はきっと負担の掛からないようにしてくれると分かっているから、私は彼に全てを委ねるように瞼を下ろした。

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