サン光
「エンピレアム?」
聞きなれない言葉に、首を傾げて見せた年の離れた恋人に「可愛いな」なんて思いつつ、私は一つ頷いて答える。
「そう。復興の終えたイシュガルドが、竜詩戦争終結に貢献した者たちの為にって、冒険者居住区を用意してくれたらしくて」
「へぇ…それで?もしかして彼の総長様にでも、そこに住まないかと勧められたりでもしたのか?」
あの男は英雄と言われるお前の兄弟だけでなく、血縁たるお前も気に入ってるみたいだしな。なんて、揶揄うような言葉を並べてはいるが、サンクレッドは滲み出る不満さは隠す様子もなくて、それがまた可愛ものだとつい笑ってしまえば不貞腐れた視線が向けられた。
「ごめんごめん…ふふ、概ねその通りのなんだけど、そんなにハッキリと嫌がられるとは思わなかった」
「当たり前だろう。恋人が他の男に住む場所をすすめられて喜ぶもんか」
サンクレッドもわかっているのだろう。アイメリクがそう言うつもりで声を掛けてくれたのではないと言う事を。それでもやはり許容し難く、こうして妬いてくれているのだ。
「まあ、でも…私は寒い所はあまり得意ではないし…サンクレッドにも相談してみる、とは伝えたんだ」
アイメリクにそう答えてしまった手前、返事を返さない訳には行かなくて今に至るのだ。
それに、仮にそこに家を建てたら一緒に住んでくれるんだよね?そう音にして尋ねれば、迷いの無い強い瞳が頷きに合わせて上下に揺れる。
それがまた嬉しくて、私は口元に手を添えて短く笑った。
「ありがとう。あぁそうだ、アイメリクが『彼に聞く際は、やましい気持ちなど全く無かったのだと伝えておいてくれ』だそうだよ」
一字一句間違いなく伝えれば、サンクレッドは二、三度目を瞬かせた後、苦笑を零した。
その眉を下げて微笑む顔が、また愛おしい。
「どうやら俺は、周りが見えなくなるくらいには嫉妬深いようだ」
呆れたように肩を竦めた彼がこちらへと手を伸ばす。それに逆らわず引き寄せられ、その胸に身を預ける。
すり、と触れた髪に甘えるように頬が寄せられる感覚に応えるためサンクレッドの腰へ腕を回した。
想いを寄せ合う関係になってから、こうしてサンクレッドが甘える素振りを見せてくれるのが堪らなく嬉しい。
ゆるりと目を閉じれば、彼の鼻先がそのまま前髪をかき分け、瞼に唇が落とされる。そうしてゆっくりと端整な顔が離れていく。
「……とりあえず、家を建てるならそこ以外で」
「ふはっ」
どうやら愛しい彼のヤキモチはまだ治まってなかったようだ。
おわり。