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サン光

「今日、サンクレッドの日だそうだよ」

突然そう口を開く目の前の人物に、俺は一瞬呆けて反応が遅れたことに苦笑を零した。
これが任務中や、相手がこいつでなければすぐにでも返せていただろうに。石の家という落ち着ける場所という場所なのも踏まえ、気を抜いて…いや、許してしまっていた。
それは別に悪いことでは無いのだが。

「どうしたんだ?急に」

「今日は3月9日、『さん』と『く』だから、サンクレッドの日」

成程語呂合わせか。突拍子のない発言に納得し、俺はにんまりと意地の悪い顔を浮かべて見せた。
そんな俺に不思議そうに首を傾げてみせる様子に愛しさを感じつつ、「それで」と先を紡ぐ。

「そんな俺の日に、お前は何かしてくれるのか?」

なんて、揶揄うように言いながら、指の背で頬を撫でてそう尋ねれば、きょとり。音が聞こえそうな程に目を瞬かせた後、目の前の人物はそれはもうふんわりと綺麗に微笑んだ。
参った可愛い。

「自分がしてあげれる事なら、なんでも」

「な―」

真っ直ぐぶつけられた言葉そのまま。裏なんて無い、余りにも純粋な返答に思わず天を仰いでしまう。

「……すまん」

少しでも、ほんの少しでも邪な考えを抱いてしまった事に対して、誠心誠意の謝罪を口にしよう。
その「なんでも」に付け込んでしまおうとだなんて、絶対にしてはいけない。断じて。
落ち着かせるように息を吐きつつ、顔と共に視線を落とせば、再度不思議そうに見つめてくる瞳と視線が合う。
何を頼まれるのかと、キラキラとしたその瞳に多少の後ろめたさを感じつつ、俺はまた1つ苦笑を零してその輝きを向けてくるこいつの髪へと手を伸ばしてかき混ぜる。

「…夜飯でも奢ってくれ」

そう伝えれば満面に微笑まれ、それがまた愛しくて胸がわしづかまれるような感覚に陥る。
困ったことに重症だ。

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