サン光
︎甘い甘い綺麗なスイーツ。
季節に合わせて作られる様々な甘菓子は、職人たちの腕がふんだんに振るわれ、どれもすばらしく美味しい。
しかし少ない容量しか入らない私の胃袋は、それらを満足するまで食べる事ができず、一人で出歩く時はどれかひとつふたつに絞るために悩やみ、他は見るだけ、漂う香りを楽しんで満足させて帰ることが度々あった。
そうして後から「やっぱりあちらを食べればよかった」と、後悔することも……無くはない。
そこで再度外に出て、買いに戻ろうとならないのは、「どうせ残してしまう」という体の深くまで染み付いた己の悪い部分でもあり、そしてそれが違わぬ現実だから。
だが、今ではそれを気にする必要が無くなったのだ。
仲間を守りし白銀の守護者、サンクレッドという恋人ができ、彼が一緒に出かけてくれるようになった事で、私が食べきれなかった分を引き受けてくれたり、彼が食べているものを少しだけ分けてもらったりと、そうやって分け合うことで私は食べたいと思ったものを、この胃袋に収めることができるようになった。
最初こそ、余してしまったのを渡すことに気は引けていたが、「お前が美味しそうに食べているのを見るのが好きだから、俺のためでもある」なんて真正面から言われ続けていれば、それも杞憂だと思わされてしまう。微笑みながら見つめてくる瞳に、思わされてしまったのだ。
そうして私は今日もまた、先日から気になっていたソーム・アル・オ・マロンを頬張るのである。
今年のものは、素材の甘さが段違いだと噂で聞いて、ずっと気になっていたのだが……なるほど、確かに去年食べたものより、素材の甘みが強く出ているように感じる。
「おいしい」
ポツリとそう零せば、目の前に座るサンクレッドが「そうか」と目を細めて相槌を打ってくれた。
彼はとりわけ甘いものが好き、という訳では無いのだが、こうして嫌な顔ひとつもせず付き合ってくれるのだ。感謝してもしきれない。
「こっちも、ほら」
と、サンクレッドが差し出してきたスプーンには、彼が頼んだパーシモンプティングがひと掬い乗っている。スプーンを受け取ろうと手を伸ばせば、悪戯に笑った顔がそれを引いて回避する。
まぁ……わかってはいたのだけれども、何度やっても慣れないのだ。恨みがましく睨んでみるが、効果なんて何一つない。
こうして私に与えるのも、このデートの楽しみの一つだ。なんて言われたことがあるので、付き合ってもらっている……という考えはダメか。一緒に楽しみたいのだから。楽しむために、そろそろ慣れておいた方がいい。
そんな葛藤をしていれば、食べないのか?そんな顔で首を傾げるサンクレッド。
「ほら、あーん」
「……ん」
とはいえ、照れてる私を揶揄ってる訳でもないそれは、完全なる優しさと、その、愛情だし。
「うん、おいしい……」
素直に零れた言葉を聞き、私の表情をそれはもう満足そうに見ていた彼は、ようやっとプティングを自分の口に運んだ。
必要なだけ開かれた、いつもより小さな口。柔らかなそれを形式として咀嚼し、貼り出た喉仏が上下する。
「見すぎだ」と軽く注意を零してから、サンクレッドはもうひと掬いプディングを取った。
「確かに美味いなこれは」
「ふふ……ね、サンクレッド」
彼の名を呼べば、ひとつ返事をくれて、再びサンクレッドのスプーンが口元に運ばれる。
私はそれを躊躇いなく、与えられるまま口の中に導いた。
季節に合わせて作られる様々な甘菓子は、職人たちの腕がふんだんに振るわれ、どれもすばらしく美味しい。
しかし少ない容量しか入らない私の胃袋は、それらを満足するまで食べる事ができず、一人で出歩く時はどれかひとつふたつに絞るために悩やみ、他は見るだけ、漂う香りを楽しんで満足させて帰ることが度々あった。
そうして後から「やっぱりあちらを食べればよかった」と、後悔することも……無くはない。
そこで再度外に出て、買いに戻ろうとならないのは、「どうせ残してしまう」という体の深くまで染み付いた己の悪い部分でもあり、そしてそれが違わぬ現実だから。
だが、今ではそれを気にする必要が無くなったのだ。
仲間を守りし白銀の守護者、サンクレッドという恋人ができ、彼が一緒に出かけてくれるようになった事で、私が食べきれなかった分を引き受けてくれたり、彼が食べているものを少しだけ分けてもらったりと、そうやって分け合うことで私は食べたいと思ったものを、この胃袋に収めることができるようになった。
最初こそ、余してしまったのを渡すことに気は引けていたが、「お前が美味しそうに食べているのを見るのが好きだから、俺のためでもある」なんて真正面から言われ続けていれば、それも杞憂だと思わされてしまう。微笑みながら見つめてくる瞳に、思わされてしまったのだ。
そうして私は今日もまた、先日から気になっていたソーム・アル・オ・マロンを頬張るのである。
今年のものは、素材の甘さが段違いだと噂で聞いて、ずっと気になっていたのだが……なるほど、確かに去年食べたものより、素材の甘みが強く出ているように感じる。
「おいしい」
ポツリとそう零せば、目の前に座るサンクレッドが「そうか」と目を細めて相槌を打ってくれた。
彼はとりわけ甘いものが好き、という訳では無いのだが、こうして嫌な顔ひとつもせず付き合ってくれるのだ。感謝してもしきれない。
「こっちも、ほら」
と、サンクレッドが差し出してきたスプーンには、彼が頼んだパーシモンプティングがひと掬い乗っている。スプーンを受け取ろうと手を伸ばせば、悪戯に笑った顔がそれを引いて回避する。
まぁ……わかってはいたのだけれども、何度やっても慣れないのだ。恨みがましく睨んでみるが、効果なんて何一つない。
こうして私に与えるのも、このデートの楽しみの一つだ。なんて言われたことがあるので、付き合ってもらっている……という考えはダメか。一緒に楽しみたいのだから。楽しむために、そろそろ慣れておいた方がいい。
そんな葛藤をしていれば、食べないのか?そんな顔で首を傾げるサンクレッド。
「ほら、あーん」
「……ん」
とはいえ、照れてる私を揶揄ってる訳でもないそれは、完全なる優しさと、その、愛情だし。
「うん、おいしい……」
素直に零れた言葉を聞き、私の表情をそれはもう満足そうに見ていた彼は、ようやっとプティングを自分の口に運んだ。
必要なだけ開かれた、いつもより小さな口。柔らかなそれを形式として咀嚼し、貼り出た喉仏が上下する。
「見すぎだ」と軽く注意を零してから、サンクレッドはもうひと掬いプディングを取った。
「確かに美味いなこれは」
「ふふ……ね、サンクレッド」
彼の名を呼べば、ひとつ返事をくれて、再びサンクレッドのスプーンが口元に運ばれる。
私はそれを躊躇いなく、与えられるまま口の中に導いた。
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