サン光
眠りから覚めるように、小さな子供はゆっくりと瞼を上げる。暗さに慣れた瞳は明るさに数回瞬きを繰り返し、がばりと飛び起きた。
(どこだ、ここ)
見慣れた古びた板っきれではない、石の天井。ヒュッ、と少年の口から息を吸う音が聞こえた。
白銀の髪を振り乱し、少年は辺りを見回すが、全く見覚えのない景色に冷や汗を流す。その際に目に入った、複数人の大人が自分を見ている事にも気が付いて警戒心を強める。
その顔ぶれにも記憶に引っかかるものはない、こういう状況で思い当たる節はひとつ――
(寝ている間に売られたのか)
ぎり、と奥歯を噛み締めた少年は短く乱れた呼吸を抑えるために、己の胸を二度叩く。
見たところ、周りの大人たちは今は少年をどうこうする様子は伺えない。視界に入った扉からは少年からは幸いにも近いと、爪先に力を込めて床を蹴った。
「待つんだ!」
見知らぬ連中の誰かが制止の声を上げたが、少年は立ち止まる事く扉へと駆けていく。
そんな少年の姿を見た数名がやれやれと立ち上がり、差程慌てる様子もなく後を追おうとして――
少年が向かう先の扉が開かれた。
ドアノブを掴もうとしていた少年の手は空を切り、扉の向こう側の人物へと勢いよく飛び込んだ。
「って!何だ!?」
「わっ、と……」
多少ふらついたその人物は、飛び込んできた少年を見下ろし、ぱちりぱちりと目を瞬かせた。
「この子は…」
「ちょうどいい所に来てくれた!その子を止めてくれないか!」
その言葉に、状況がわからないながらも少年の前に意図せず立ち塞がっていた人物は、身をかがめて少年を抱き上げる。
白銀の髪、顰められた眉の下でギラついているヘーゼルアイの瞳。向けられる視線は違えど、それらに覚えのあるものだから「ふふ」と、少年を抱き締めながら笑い声を零した様子に、少年は目を僅かに見開いた。
夜に眠れず朝を待ち、日が登り始めた頃によく見ていた空のような紫の髪。
太陽が昇りきり、晴れた日に見上げてみていた空のような澄んだ色の瞳。
そして向けられたことのない、穏やかな顔。
「な、」
思わず言葉を失い、見入ってしまった少年は口を開いたままに固まってしまった。
じわりじわりと白い頬に赤みが増していく様子に、その一部始終を見ていた部屋にいた大人達の誰かが「体が子供になっても、遺伝子に根付いてるほど想っているのね」と呟いたが、少年の耳には届かない。
「顔が赤くなってるな。風邪?」
熱を測ろうと顔を寄せて、額がやんわりと合わさる。
その瞬間、音が出たと言ってもいいくらいの勢いで顔を真っ赤に染め上がった少年は、頭をがくりと項垂れさせた。
「サンクレッド!」
「サンクレッド!?」
アルフィノが呼んだ名前に、腕の中の存在が愛しい恋人だと知らされ、キャパオーバーで意識を失った幼い愛し人を改めて抱え直したのだった。
(どこだ、ここ)
見慣れた古びた板っきれではない、石の天井。ヒュッ、と少年の口から息を吸う音が聞こえた。
白銀の髪を振り乱し、少年は辺りを見回すが、全く見覚えのない景色に冷や汗を流す。その際に目に入った、複数人の大人が自分を見ている事にも気が付いて警戒心を強める。
その顔ぶれにも記憶に引っかかるものはない、こういう状況で思い当たる節はひとつ――
(寝ている間に売られたのか)
ぎり、と奥歯を噛み締めた少年は短く乱れた呼吸を抑えるために、己の胸を二度叩く。
見たところ、周りの大人たちは今は少年をどうこうする様子は伺えない。視界に入った扉からは少年からは幸いにも近いと、爪先に力を込めて床を蹴った。
「待つんだ!」
見知らぬ連中の誰かが制止の声を上げたが、少年は立ち止まる事く扉へと駆けていく。
そんな少年の姿を見た数名がやれやれと立ち上がり、差程慌てる様子もなく後を追おうとして――
少年が向かう先の扉が開かれた。
ドアノブを掴もうとしていた少年の手は空を切り、扉の向こう側の人物へと勢いよく飛び込んだ。
「って!何だ!?」
「わっ、と……」
多少ふらついたその人物は、飛び込んできた少年を見下ろし、ぱちりぱちりと目を瞬かせた。
「この子は…」
「ちょうどいい所に来てくれた!その子を止めてくれないか!」
その言葉に、状況がわからないながらも少年の前に意図せず立ち塞がっていた人物は、身をかがめて少年を抱き上げる。
白銀の髪、顰められた眉の下でギラついているヘーゼルアイの瞳。向けられる視線は違えど、それらに覚えのあるものだから「ふふ」と、少年を抱き締めながら笑い声を零した様子に、少年は目を僅かに見開いた。
夜に眠れず朝を待ち、日が登り始めた頃によく見ていた空のような紫の髪。
太陽が昇りきり、晴れた日に見上げてみていた空のような澄んだ色の瞳。
そして向けられたことのない、穏やかな顔。
「な、」
思わず言葉を失い、見入ってしまった少年は口を開いたままに固まってしまった。
じわりじわりと白い頬に赤みが増していく様子に、その一部始終を見ていた部屋にいた大人達の誰かが「体が子供になっても、遺伝子に根付いてるほど想っているのね」と呟いたが、少年の耳には届かない。
「顔が赤くなってるな。風邪?」
熱を測ろうと顔を寄せて、額がやんわりと合わさる。
その瞬間、音が出たと言ってもいいくらいの勢いで顔を真っ赤に染め上がった少年は、頭をがくりと項垂れさせた。
「サンクレッド!」
「サンクレッド!?」
アルフィノが呼んだ名前に、腕の中の存在が愛しい恋人だと知らされ、キャパオーバーで意識を失った幼い愛し人を改めて抱え直したのだった。