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サン光

それはなんてことの無い、ほんの気紛れ。
イル・メグで休憩中に懐かしい記憶が思い出され、何となく指が動いた。それだけの事だった。
現状を考えるとそんな悠長な事をしている場合でもないのだが、そう、繰り返すがほんの気紛れだ。
一面に広がる花を見遣り、ひとつ、ふたつと摘み取り、思い出された記憶を辿って茎を編み込む。
少し編んではまた花を摘み、少し編んではまた花を摘み。そうして出来上がったのは華やかな冠。
少しばかり不格好ではあるが、まぁこんな物だろうと指先に引っ掛けてくるりと回す。
そしてこれもほんの気まぐれに、1番近くに座りフェアリーと戯れている、ミコッテ族の彼女の髪を彩るようにその花冠をそろりと乗せた。

「ん…?これ、花冠?」

何事かと乗せられたそれを手に取り、首を傾げながらそれの名を呼ぶ彼女は、不思議そうな色を瞳に乗せて俺を見てくる。
何処か嬉しそうに花冠を彼女の手から預かり受けたフェアリーが、再び彼女の頭へと運び飾るのを眺めていれば、少し照れたようにはにかんでいる。んん…。

「どこで覚えたのこういうの」

そう尋ねられ、先程思い出した記憶をもう一度巡らせる。まだまだ小さく幼い孫におねだりされて、皺の刻まれた顔を更にくしゃくしゃにしながら、綺麗に整った花冠を作り上げていたあの人の事を。

「…ガキの頃。ルイゾワ様から」

まだ大人とも言えないような微妙な年齢だった頃の懐かしい記憶。
頼んでもいないのにお前も作ってみるかと、半ば無理矢理に覚えさせられたようなものではあるが、今となってはそれもまたいい思い出なのだと答える。
少し浸ってしまったな、と改めて花冠へと向けていた視線を落とし、今その持ち主の顔を見てどきりとした。
甘くとろりとした優しい瞳で俺を見てくるものだから、息が詰まってしまう。

「素敵な思い出だ」

余りにも眩しいそれに返す言葉を失っていると、いつ気付いたのだろう、「懐かしいわね」と零すアリゼーと、それに続いてアルフィノの気配が近づいてくる。正直今のタイミングは助かったとしか言えない。

「それ…おじい様にねだって何度も作ってもらった記憶があるわ」

ちらりと向ける視線は、俺の視線を奪った彼女に乗せられている俺が作った花冠に向けられている。到底ルイゾワ様のように綺麗に作れているものでは無いのだが、そう思い出してもらえるのは、嬉しいと素直に感じた。

「そうして、作ってもらった花冠が枯れてしまい、よく君は泣いていたりしていたね」

「ちょっとアルフィノ!?」

思い出に浸っている中、突然の暴露にアリゼーが声を荒らげるが、確かにそういった場面を見た事もあったな、と俺は思わず小さく笑ってしまった。
そんなアリゼーをどうにか宥めたアルフィノは、足元の花をよりすぐり、花を摘み上げ花冠を作り始めれば、アリゼーも倣うように続く。


―――


思い出をぽつりぽつりと話しながら作られたそれを、さてどうしたものかと双子は顔を見合う。

「ふふ、アイツにあげてくるといいよ」

そんな二人を見かねて、そう声を掛けながら彼女は視線を流して我らが英雄へと向けた。
彼女の弟であり、アルフィノとアリゼーの憧れの英雄。
あぁ、確かにあいつなら喜んで受け取ってくれるだろう。彼もまた、懐いてくれている二人を弟妹のように可愛がっているからな。

穏やかに微笑んで頷くアルフィノと、意を決した様なアリゼーが英雄の元へと歩いていく背中を見送りつつ、未だ傍に残る彼女が口を開いた。

「これ、渡す相手は私でよかったのかな?」

「―――っ、あぁ…ふと、思い出して気紛れに作ったやつだったしな。そこの草人にやるのも理由がないだろ?」

とはいえ、恋仲でもない仲間にだって、きっかけも無く突然渡す理由にはならない。
あぁくそとんでもない墓穴だ。

「お前が、丁度そこにいたからな。気紛れだ、気紛れ」

「…そう?………そうか、ありがとう」

気紛れだと言われたのにも関わらず、そんな嬉しそうな顔で笑わないでくれ。
頼むから。
気紛れなんて言葉で誤魔化してしまった嘘をバラしてしまいそうになる。

「どう、いたしまして」

どうにかこうにか絞り出したそんな答えに、少しだけ情けなさを感じてしまった。


―――


その後、どこか嬉しそうな彼女が俺から花冠の作り方を教わり、完成させた花冠をミンフィリアへと送っていたというのを知ったのは、アーモロートから帰った後の事だった。
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