このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

黎深台風その1



翌日、菜の花色の新しい服で仕事を始める。
後宮で準備をしていたら
「黄尚書は愛妻家通り越してもはや溺愛ね」
と半ば呆れた声で珠翠が言った。

よくわからずに首を傾げていると
「あなたが劉輝様にお話ししたの、昨日でしょう?なんでもう着てるのよ!?」
「いや、前からそう言う話になっていて私からお願いするように、と言うことだったからその間に用意していたみたいで」
「その準備の素早さよね、ほんとにもう。」
あの黄尚書がねぇ、と珠翠は苦笑いして見送った。



少し緊張しながら外朝で仕事を始める。
とやかくいう人たちもいるようだが、生成りから菜の花色と薄い色でしばらく慣らしてからもう一着の蒲公英色にしたほうがいいかしら、などと考えながら気にせず各部を回る。


吏部への届け物を持って部屋に近づくが、何やら空気がおかしい。
「失礼します」と恐る恐る声をかけて一歩入ると
「遅い!!」と言う冷たい声が響いた。


部屋の真ん中の大机にふんぞりかえって腰掛けた黎深と、それを止められずに周りで小さくなって仕事をしている吏部官吏たち。

「こ・・紅尚書??」
「遅いぞ」

??何か急ぎの案件はあっただろうか・・・思い出しても今日の依頼の中に至急案件はなかったはずだ。
大体、尚書室に籠って出てこない人が、なぜこの執務室のど真ん中の大机の上に座っているのか皆目検討がつかない。
もちろん、机に座っているのだから仕事などする気もない。
周りの吏部官吏に聞いたところで、この状況で答えるものはいないだろう。


くるりと見渡して絳攸兄様を探すが見当たらない。
これは埒が明かないと小さくため息をつく。
”遅い”の回答は間違いなく仕事に対してではないとわかりながら見合っていても仕方ないので
「遅くなり申し訳ございません。こちらが本日のお願いの案件になります。決裁お願い申し上げます、紅尚書」
と書簡を直接手渡した。


「こちらへ」
案内されて尚書室へ入る。
バタン、と扉がしまったあと、あの状態の紅尚書に怯むことなく対応した、と吏部官吏がざわついたのは言うまでもない。


「[#da=2#]、来るのが遅い」
もう一度黎深は言った。他に人はいないので普段通りで構わないだろうと思い
「黎深様、本日はお約束していなかったと思いますが・・・」
と言葉を返す。


「今日は、新しい服で初めて出仕する日だろう!!」
と扇を突きつけてきた。

「へ?」
「何を間抜けな声を出している。昨日、バカ王に許可をもらったなら、今日から違う外朝服で出仕するのだろう、なぜ見せに来なかった!!」

「え??」
もう一つ間抜けと言われる声が出てしまった。

「えっと、確かに昨日、王には許可いただきましたが、今日来てくることになったのは昨夜決まったことで・・・というかすでに用意していたのを知ったのもなんなら昨夜で・・・」
「お前は・・・ったく、あの男がお前のために用意していないわけがないだろう。なぜそんなこともわからん」
なぜかイライラした様子で夫の気持ちを代弁している。


(そんなこと言われても・・・)
仮に鳳珠がそう思ってくれていたとしても、なんで黎深様がイライラしているのだろう?百合さんか邵可様がいないと黎深様の気持ちはわからないなぁ、と困っていると、どさっと風呂敷に包んだ荷物を目の前に置かれた。


「[#da=2#]の外朝服だ、2着入っている」
「えぇぇぇぇ??」
「お前はさっきから馬鹿みたいな反応ばかりしているな。きたきり雀になるわけにいかないだろう。なんなら今すぐ着替えろ」


(今すぐ・・・って・・・いや今日初めて着たばかりだし・・・これはまずい)
「そもそも、黎深様はなぜその話を?」
「絳攸だ。王が”[#da=2#]に服の色を変えたいと頼まれたんだよ〜”と茶飲み話にしたらしい。秀麗と[#da=2#]のことは報告させるようにしてあるからな」

(え・・・なんで・・・?秀麗様はともかく私まで?)
「[#da=2#]の話を聞けば、アイツを揶揄えるだろう」

(出た・・意味不明理論でた・・・鳳珠ごめんなさい)
心の中で思ったが、そこは冷静に
「ここで着替えるわけにはいきませんので、こちらは今日のところは受け取らせていただきます。紅尚書、お心遣いありがとうございました。依頼の決裁は明後日受け取りに参ります。」
と丁寧に礼をとり退室する。


チラリとみたらまだあまり機嫌は良さそうではなかったので
「黎深様、いつも気にかけてくださるお気持ち、嬉しく思いますわ。」
と言って、もう一度一礼して部屋を出た。
2/4ページ
スキ