紅の企み
黎深はまたいつもの不敵な笑いを浮かべると
「気になるか?」と尋ねた。
「いや、邵可殿が二人について尋ねたので、順番で聞いただけだ」
平静を装っているが少し視線を逸らして鳳珠は答えた。
「まぁいい、そういうことにしておこう。[#da=2#]は外朝に来るときはその格好だからな。後宮が地盤の珠翠と服装が異なるので外見の華やかさはないが逆に凛とした美しさがあると評判だぞ。」
黎深は一息つく
「珠翠殿並に告白も・・・随分されているようだな、[#da=2#]」
「そうなの?私にはそんなこと一言も・・・」
珠翠が驚いて顔を上げる。
「え、あぁ、まぁ・・・」
少し[#da=2#]の様子がおかしいと珠翠は感じた。
「すっぱりと断らないから、男どもが未練たらたららしい」
([#da=2#]に想い人がいないことは知っている、
どちらかというと愛だの恋だのからは距離を置きたがっているように思っているけど、そんなに告白されても揺るがないとは・・・)
珠翠は少し不思議におもう。
「たまたま、今までは心が動かされる人に出会わなかっただけですわ」
[#da=2#]はキッパリといった。
(そう、本当に心惹かれる人がいなかっただけ・・・)
外朝に出入りしていると、さまざまな人の様子が見えてくる。
男は外見、肩書きだけではない。どんな高位高官もどんな美しい人でも、
感受性の高い[#da=2#]には、裏にある醜い部分が見えてしまうと、恋心など生まれないものだ。
すでに自分も珠翠も適齢期というのはとうに過ぎている。
実際、[#da=2#]は黎深や百合から「見合いの話はあるけれど嫌なら断っていいよ」と言われていたので、その言葉に甘えてそのまま断っていただけだ。
人生を共に歩んでもいい、と思える人がいたら、結婚という選択肢を取っても構わないと思うが、そうでないならいたずらに好ましいと思えない男と付き合う気がない、と思っているだけだが、あまり理解はされてこなかったので、詳細は語らない。
正直、どんなに人間性がねじ曲がっていても氷の長官の方が嘘がないぶん信頼できるし、ついさっきまで顔すら知らなかったにもかかわらず、黄尚書の仕事ぶりを好ましく感じる方だ。
たまたま、恋心を持てる、そう思える人が対象にいなかっただけ、[#da=2#]が恋愛から距離をおいたのは、ただそれだけである。
「今までは・・・ね」
「はい、今までは」
これ以上この話をしても膨らまない。
それに、身内と言える邵可様や黎深様であっても、
あまり簡単に心の奥を見せる気にはならなかった。
話題を切り替えるために
「このお菓子、とても美味しいですけどどちらのですか?」と
ちょっとだけ興味のあった、でも当たり障りのない会話に切り替えた。