青い嵐
黎深や飛翔の無茶振りにキレたり、その度に柚梨が取りなして笑ったりして楽しく会は進む。
和やかな雰囲気の中、時間が経てば経つほど、雰囲気に隠された事情が浮かび上がってくる。
おそらくそれぞれが、どんなに一生望んでも、この形が一生続かないことをわかっていて。
それでも、無邪気でいられた頃を懐かしむように、大切にして時間は進む。
[#da=2#]は”悪夢の国試組”の絆に直接関わっていない。
でも、誰よりも大切な鳳珠が、何よりも大切にしてきた絆だ。
鳳珠の横で、それを支えたいという思いはあるけれど。
心配そうな視線に気づいた鳳珠は、時折頭を撫でたり髪の毛を弄んだり、[#da=2#]の不安に気付かないふりをしている。
苦しくなってきて、給仕のついでとして一度席を立つ。
廊下で庭院を見ながら、頭を冷やす。
程なくして、悠舜が出てきて、じっと[#da=2#]を見つめた。
いつだったか鳳珠から聞いた、”いつの日かまた、花の下で、誰一人欠けることなく、碁を打ち、盃をかわそう”と約束をした、というのを思い出した。
鳳珠と黎深様が約束したことの中心には悠舜様がいたことは確かで、悪夢の国試組〜管尚書と姜州牧や来尚書が入っていたかは知らないけれど。
花も咲いていないし、碁も打っていないけれど、きっと望んでいた空気感は今日みたいな感じで、これから起こることの諸々を想定すると、こんなふうに和気藹々と飲めるのはもしかしたら最後かもしれない。
(悠舜様ならそんなことがわかるのも造作もないはず。だから今日の宴会を企画されたのかしら)
悠舜の背中越しに、黎深が見えた。
おそらく、悠舜は後ろにいることをわかっている。
それに気づかないふりをして、一言告げた。
「[#da=2#]、皆まで言いません。貴女は、鳳珠を頼みます。そして、黎深も」
「悠舜様…」
泣きそうになりながらかろうじて捻り出した微笑みは、ぎこちないものだった。
「またみんなで集まろう」
と誰もが言って、なかな帰ろうとしない黎深を悠舜が回収して、今日の会はお開きになった。
きっと”また”はないけれど…
宴のあとの寂しさと優しい嘘に視線が落ちる。
「みんなに気を遣って疲れただろう」
鳳珠がお茶を入れて甘やかしてくれる。
「貴方の大切な方達と、こうして時間を共有できて幸せでしたわ」
本心から告げる。
少し驚いて目を見開いた鳳珠が破顔した。
「こんな可愛らしい姿をみんなに見せたくないと思った。でも、見せびらかしたいとも思った私はわがままだな」
また前髪から耳にかけて、指先で髪を弄びながら鳳珠が言う。
「もっと華やかに着飾った姿も見てみたいが、見せたくはない」
(わたくしが鳳珠のお顔を見せたくないと思うのと同じ感じかしら?)
と思いながら、寄りそう。
「今日は欧陽侍郎がご一緒でしたからね、凜は男装なのでいいですけれど、わたくしが盛ったら欧陽侍郎とぶつかりますし、あの絶妙な匙加減には敵いません」
素直な気持ちを表す。
「確かにな、あれは彼にしか出せない。全く飛翔との組み合わせは水と油なのに、うまく行くのが不思議だ」
おそらく、戸部に置き換えた発言だろう。
尚書の考えを先回りして様々なことを整える景侍郎と、工部尚書と侍郎の関係性はだいぶ異なる。
それでもそれぞれの形で信頼関係が成立していることを、今日近くにいて感じた。
「部署ごとに、それぞれの形がありますね。わたくしは黄尚書には景侍郎しかいないと思いますけど」
鳳珠は満足げに頷き、[#da=2#]の頭を抱き寄せた。