青い嵐
鳳珠の問題もあり、家人を払っていたので給仕は[#da=2#]と凜が請け負った。
それもあり出たり入ったりしているのがきにいらなかったのか、黎深はなにやら不機嫌に鳳珠に向かって悪態をついたり、戻ってきた[#da=2#]にちょっかいを出している。
「黎深、いい加減にしなさい」
悠舜にたしなめられてもあまり効果はない。
[#da=2#]は酒器を持って立ち上がり、鳳珠の右にいる欧陽侍郎から注ぎ始めた。
黎深としては余計に面白くない
くるっと一周して、最後は黎深。
酒を注いだ後、小さい声で叔父様、といって、黎深の耳に手を当てて内緒話をする。
結構長い内緒話の間、顰めっ面が笑み崩れてきて、一同は不気味なものを見た表情になる。
内緒話がおわり、手を離してにっこり笑う。
黎深が抱きつこうとするのを間一髪でかわし、お酒をとってきますわ、と言って室を出た。
「ヨメ、なかなかやるな!」
「えぇ、見事です」
工部組は悠舜以外に黎深を手玉に取った人を見たのが初めてで驚きを隠せない。
「旦那様、最近[#da=2#]は紅尚書のあしらいかたが上手くなってきたと思うが」
「間違い無いですね。鳳珠と結婚したことで絡み方がひどくなって鍛えられたのでしょう、いいことです」
「鳳珠、内緒話が気になりますか?」
柚梨は面白くなさそうな顔をしている鳳珠に水を向ける
「いや…凜の言う通りだな、と思って感心してただけだ」
「フン、余裕ぶりおって」
デレデレしていた黎深が元に戻って悪態をつく。
「奇人、そういや、酒をとってくると言ってたがここにたくさんあるのに、なぜ取りに行ったんだ?」
瓶から手酌で周りより大きな器で飲みながら飛翔は聞く。
「それはお前用だ」
「じゃ、遠慮なく」
玉のいー加減にしろ!という声を無視して本当に遠慮なく飲み始めた。
程なくして、[#da=2#]が戻ってきた。
侍女を廊下に待たせているのか、凜と一緒に出たり入ったりして追加のお皿を並べたり、片付けたりしていく。
「ありがとうございます」という声が聞こえて下がらせたのか、室に戻って戸を閉めた。
「柚梨様、後でわたくしが作ったお菓子がありますので、召し上がってくださいね。お気に召したら奥様やお子様にもお持ち帰りいただきたくて」
お酒を足しながら桃華が話しかける。
「新作ですか?それは楽しみです。いつも妻に[#da=2#]ちゃんのお菓子の話をしているので、とても喜ぶと思います」
ジトーっとした黎深の視線を感じて振り返ったが、とりあえずここは無視しておく。
大体、お土産は全員分あるのだ。
その様子を鳳珠は笑い、柚梨は哀れむかのような視線を送っていた。
そのあと「きちんとお話するのは初めてですよね」ともう一度、欧陽侍郎のところへいく。
普段から官吏とは思えないぐらい派手でキラキラしいが、今晩は宮城で見るよりさらにキラキラしい。
噂には聞いていたが、鳳珠礼賛を散々聞かされることになる。
「今日の姿は美しいと思いますが、あなたも彼の方の奥方ならもっと着飾ったほうが」
とか諸々ダメ出しをされたが
「やめておけ、ドン引きしているぞ」
と飛翔が止めてくれたので、飛翔用の酒瓶ごとお酌をして礼をしておく。
「ヨメは飲まないのか?」
「少しはいただいていますけれど、強くありませんので」
”近づくな”と言われていたが、ここで飲み比べを要求されることはないから大丈夫だろう。
いざとなったら周りが止めてくれる。
「結構イケる口と聞いてるが?」
飛翔は社交辞令的な発言にはめげない。
「紅秀麗が飲み比べで勝ったぐらいだからな、身内は期待できる」
「秀麗は特別です。両親が底無しに強いので。私は紅家でも普通の出ですよ」
鳳珠、黎深、悠舜は(普通の出でもないし赤くなるけど酒も強いけどな)と内心思ったが、[#da=2#]が飛翔に捕まった時の被害を考えて、言葉を飲み込む。
「なぁ、一度聞いてみたかったんだけれど」
飛翔が声を落として話しかけてくる。
「ヨメは鳳珠のどこが良かったんだ?」
[#da=2#]はクスッと笑って
「そうですね…”全部”ですわ」
「全部ったって、奇人変人仮面だし、捻くれ者であの仕事の仕方だぜ?素顔は男か女かわからない超絶美人だし、ヨメが倒れなかったというだけで奇跡モンだけど、ひねくれ仮面がより俺の方が男らしくていいと思うぜ」
なんだか、よくわかんない。
独身(だった)同士の張り合いかしら?
と思っていたら、欧陽侍郎が
「ひねくれ仮面とはなんですか!酔いどれ尚書に嫁ぎたい女性なんでいるわけないだろ!」とキレていた。
「それは・・・鳳珠様とわたくしだけの秘密ですわ、管尚書」
にっこりと笑って止めを刺す
「わたくしの想いは鳳珠様がわかって下っているので、それで十分ですわ」
わざと鳳珠の後ろから肩に腕を回して抱きついてみたら、鳳珠以外が全員固まった。
鳳珠はニヤリと笑い、黎深はショックを受けすぎてもはや回復不能だったけれど、それも気づかないふりをした。
「ちぇ、つまんねー」という飛翔の声も放っておいて、鳳珠の耳元で「大好きです」と囁いてから、悠舜と凛のところへ逃げ込んだら二人から笑われた。
二人は終始ニコニコと周りの様子を見ながら、時々話に入って楽しんでいる。
「今日の[#da=2#]の装いもいいね、この前と違って少し大人っぽく見える」
「凜、ありがとうございます」
「後ろの髪飾りはどうなっているのか見せてもらえるか?」
何やら凜の発明家魂に火をつけたようで、髪をいじってしげしげと確認をしている。
「これをもう少し安価な素材で作って売り出したら街で流行りそうですよね」
悠舜も楽しそうに会話に参加している。
「少し落ち着いた今、庶民の経済をうまく回しておかないと」
小さな声で悠舜が言う。
「色を変えたらいろんな髪やお衣装に合わせられていいですよね」
他愛もない話に方向を戻す。
柚梨が「うちの子に贈り物しようかな」などと話していて癒し度倍増となっていてた。
多分、楽しい。
みんな、楽しんでいる。
でもどこか、足元がぐらついている橋を渡っているような感覚。
板子一枚木の下は海の底のようだ、と思いながら、見て見ぬ振りをする。
立ち上がってあちこち移動するたびに感じるそれに意識を向けると、その様子を、黎深が時々心配そうに見つめてる。
(黎深様に考えていることばれたかな…)
少し険しい顔をしていたのか、鳳珠の隣に戻ると、心配そうみ右手を取られ、ギュッと握られた。
指を絡めて少し甘えると、満足そうな微笑みにぶつかった。
もう少し、この楽しさに微睡みたいと思った。