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紅の企み

自分たちのことをどう思うか?


邵可の質問に動揺したの珠翠だ。

最愛の亡くなった奥方がいるため寡暮らしを続けている邵可。
その心に入り込めるなどと一度たりとも思ったことはないのは、長い関係性において、そこに入る隙は太陽が西から昇ること以上にありえないことを誰より一番理解しており、さらに薔君や秀麗、静蘭を含めた邵可様を取り巻くすべてを心から愛しているからだ。

そして珠翠は、邵可は自分の想いを知っている、ということもわかっている。
決して安易に告白したことなどないが、近くにいるからこそ想いは伝わってしまっているだろう。
安っぽい愛だの恋だのといったものではなく全てを包括しているのが珠翠の想いであり、邵可はそれを受け止めている。

薔君、秀麗、静蘭と弟二人以外に邵可から大切にされているのは王と自分と[#da=2#]だという認識だ。
自惚れではなく、互いの共通認識だろう。

だから珠翠はすべてを受け入れて自分の意思で邵可の近くにおり、さらに邵可は受け入れている。
それが邵可と珠翠の関係なのだ。

(私はこの関係で居られればそれでいい)

それなのに、敢えて尚書の二人に聞くとは・・・


「どう、とおっしゃられても・・・私は外朝に出ることはそんなに多くありませんし」

教科書通りの答えをする珠翠。


「私の数すくない知っている二人が、人気があるといいと思ってね」

邵可にしては随分と軽口だ。
弟の思いつきで始まった奇妙で重い空気のお茶会を少しでも軽くしようとしているのだろうか・・・
珠翠も[#da=2#]も悩みながら答えを模索する。


「珠翠殿はボンクラ王に貴陽一の夜の華と張り合える、と言われたらしいぞ」
黎深がボソッと呟く。
「そもそも何で王とその夜の華が会うんだ?」
「藍家のバカが唆して連れ出したらしい。結果的に国試の木簡事件につながったが」
「なっ・・・」

全員にとって、こちらの方が重大だ。
だが、王はふらふらと出ることを全員が知っているのでそれ以上は何も言わないが。


珠翠は頭を抱えて
「そうなんですよね、秀麗様が後宮を出られてからまたふらふらと出るようになってしまって…ただ、今までと違うのは外に出る、というところが…」
「そういえば、夜這いご免状が届いたこともあったね」
邵可は苦笑いをする。
「藍将軍と李侍郎がいるからいいようなものの、困ったものだね」
たいして困ってない顔で付け足した。


黎深が話を戻して
「部下たちが何人か珠翠殿に告白したらしいが、”想う方がいるので”と振られたと泣いていたことがあるぞ。
 吏部だけで何人かいるのだから、宮城全体だとどれだけいるのか・・・」
と続ける。
「戸部は景侍郎はじめ妻帯者か年寄りしかいないし、堅物尚書だからそんな話はないだろうけどな」

ムッとした鳳珠には気が付かず
「珠翠はモテるんだねぇ。上手い断り方を見つけたね」
と邵可はのんびりとつぶやいた。


うまい断り方なんかではない。
単純に、邵可への思いがあるから断っているだけなのだ。
中途半端な断り方をするより、正直に言った方が話が早いだけなのだ。

実際、滅多に外朝には出ないが、たまにいくと何度も声をかけられる。
高嶺の花と言われているし、”想う人がいる”と全員が断られているのは周知の事実だが
それでも近づきになりたいという、僅かな希望を持って老いも若きも珠翠に声を掛ける。
そして、全て断られているのが実態だ。

(想いは一つだけれど、決して叶わない・・・)

珠翠はそっと下を向き瞼を閉じた。

「その少し憂いがある表情がいい、らしいぞ」
「君はよく珠翠殿のことを知っているな」
鳳珠が気がついて尋ねる。

(それはそうだ、兄上の大切な人だからな)
「まぁ、な・・・それだけ、話が聞こえてくるのだ。
 高嶺の花の噂話は早くてね」


(話は聞こえてくるのではない、影を総動員して集めているだけだ。黎深様は関わらないだけで私たちのことを知っている。大好きなお兄様に関わる人だから、把握しているだけ)

珠翠の読みは正しい。
事実そうなのだ。言わないだけで。

「では、[#da=2#]殿はどうなんだ?」
話の流れで、鳳珠は尋ねる。
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