このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

緑の風ー3



(寝付けない…)
ここ数日で色々なことが大きく動いたのと、久しぶりに猛烈に頭を使ったせいか、深夜になっても目が冴えてしまっていた。

室を出て廊下から庭院を眺める。
隣の部屋はまだ灯りが付いていつので、仕事をしているのだろう。
いくら体力があるとはいえ、もう少し仕事の量を減らしてもらわないと身体が心配になる今日この頃だ。

鳳珠の妻として、彼を支えることができているのだろうか?

百合のように、紅家の仕事に奔走しているわけでもなく、
凜のように、自身も仕事をしながら悠舜様の生活の全てを支えているわけでもない。
会ったことはないが、柚梨様の奥方のように、公休日も仕事で帰れない夫を陰ながら支えて子育てをしているわけでもない。


結婚してからそんなに時間が経っているわけではないのでまだ多くは求められていないが、この先、鳳珠は自分に何をして欲しいと思っているのだろう…
優しさと愛を受け取るばかりで、返せていないような気がする。


「ふぅ…」
一つため息をついて顔を上げてみる。
月はもう中天を超えていた。


(贋金、塩の価格上昇。あと手をつけるとして、庶民に関わりがあるものといえば鉄と茶…米には流石に手は出さないだろう)

ここで掠め取ったお金を何に使うか、なんて考えたくもない。
治世が落ち着いているように見えるが、不安定な水に浮かんだ板の上にいるような状態に見える。
だから鳳珠や悠舜様が必死になって支えている。

・・・

贋金の時も、塩のことも資料を読んだりまとめたりするのは楽しかった。

でもそれが全て鳳珠に直結するから頭と手を動かしたことで、好きでもないことにそこまで情熱を傾けられるかと言われればあまり自信がない。

堂々巡りの考えにはまってしまい、視線がまた下に落ちた。






いつものように眠りにつく前に[#da=2#]の顔を見てこよう、と思って室を出たら、廊下に佇んでいる姿が目に入った。

思考に沈んでいるのか、気配に気づかずにを宙を見上げていたが、今度は下を向いて険しい表情になる。
何を考えているのだろうか…

月明かりに照らされたその姿はいつになく儚く、そのまま月に攫われそうで胸が早鐘を打つ。


何も言わずに後ろから抱きしめる。
どこにも行くな、という想いを込めて。
私が守る、という誓いを込めて。



ずいぶん長い間佇んでいたのだろうか、すっかり冷えた桃華の身体に自分の温度が少し移ったのか、ゆっくりと顔だけ振り返って見上げてきた。
瞳が不安に揺れている。

護らなければ。この愛しい女の身も心も。

聡い[#da=2#]は裏側の何かに既に気が付いている。
この先、最悪の事態も想定して動かないといけない。


額に軽く口付けを落として、そのまま抱き上げる。
キャッという小さな声にクスッと笑って
「もう遅いから寝よう」と自室に連れて行き、寝台に横たえそのまま隣に横になる。


よくわかっていない顔でパチパチと瞬きをして見つめてくる[#da=2#]を抱き寄せ
「ずいぶん冷えてしまったな。こうしていれば、暖かいだろう」
と言うと、胸元にスリッと寄ってくる。

安心したような顔になりほっとする。
「おやすみ、[#da=2#]。愛してるよ」
「おやすみなさい、鳳珠…」
手で覆うと素直に閉じた瞼に口付けもう一度抱き寄せる。



少ししてから規則的な寝息が聞こえてきた。

これからの事態によってはもっと不安になるのだろうか…
腕の中にいるだけで満たされた気持ちになり安心する。

これから先、毎日一緒に寝たいと言ったらどんな顔をするだろうか、と思いながら瞼を閉じた。

8/11ページ
スキ