緑の風ー3
邸に戻って、3人で軽く食事をする。
話が話なので家人は払っておいた。
「あそこであれ以上話すのは危険だったので急に来てもらって悪かった」
鳳珠が柚梨に酒を注ぎながら謝る。
「そうですね、あれ以上は…やはりこの間の宰相会議の件につながってますよね?」
[#da=2#]が”きいていていいの?”と言う顔で見るので、黙って手をとった。
「そうだな、もともと戸部管轄だし、悠舜には”全て”戸部で引き受けよう、と言ってきたから、基本的にこれからも引き受けることになる。」
「宰相会議で、専任の官吏をおく、という案が出たそうですよ」
柚梨が補足する。
「仕掛けは…ボロを出したようなものだな。[#da=2#]、今日やっていた調べ物は明日以降も時間のある時でいいから続けてくれ。」
「はい」
「まだまだこれから色々起こりそうですね」
「あぁ…」
重くなった空気を切り替えるように、
「それにしても、[#da=2#]ちゃんの集中力、すごいですね。鳳珠の高速処理に匹敵すると思いますよ」
鳳珠が出て行ってからの勢いを思い出し、柚梨が笑う。
「黎深が言うには、国試を受けたた状元間違いなしの頭、らしいからな」
[#da=2#]の頭を撫でながら酒を飲む。
「あれは…単なる身内贔屓ですわ」
「きっと1年いれば施政官になれますね、[#da=2#]ちゃんは官吏になろうとは思わなかったんですか?」
「小さい頃から思わなかったですね。多分早くに両親を亡くして、中途半端な立場だったのもあって、そういうことまで気が回らなかったというか…」
思い出すように、そしてここ数日考えなくても思い出していることを伝える。
「でも、黎深様のお邸で引き取ってもらってから、絳…李侍郎の横で勉強はしていたんです。それに女人官吏制度ができる2年前に、黎深様に言われて後宮女官に上がってしまっていましたし、そのころはそんな制度ができるとも思っていなかったので、制度ができたときもも秀麗が受けられてよかったとは思いましたが、自分が…とは思わなかったですね」
一つ息を切って続ける
「先日も、悠舜様にも言っていただいたんです、国試を受けてみないか、って。でもわたくしはたとえ受かったとしても官吏にはなれないと思います。お恥ずかしいことですけれど、もし私がいま官吏になりたい、と思ったとしたら、それは鳳珠や柚梨様や秀麗のようにこの国をよくしたいとか民を思って官吏になる、という動機ではないので…」
チラリと鳳珠を見る。
「そうだな…もし今官吏になったら、戸部配属は無理だからな。もしくは、私が戸部を出るか、だ。大体、女人官吏が秀麗しかいないんだ、結婚したら同じ部門で働くのを許しはしないだろうからな」
クスクスと笑いながら続ける。
「嬉しい反面、もったいないと思うこともある。女人官吏がこのあとでない、と言うのも問題だし、なったらなったで茨の道だ。[#da=2#]がそれでもやってみたいという思いが出たら、私は決して止めることはしないし、支えるけどな」
「そうですね…でも、もったいないと思っているのは鳳珠や鄭尚書令だけではなく、私もそう思いますよ。今日のあの仕事ぶりを見て余計にそう思いました。」
柚梨は少し残念そうに、でも仕方ないという表情をしていた。
「せっかく黎深と悠舜が兼務で正式に戸部侍郎付きにしてくれたんだから、いつまでこのあやふやな立場で仕事ができるかわからんが、正式なものは利用させてもらおう。だが、その気になったら私に遠慮せず言ってくれ」
コクリと[#da=2#]がうなづいた。