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緑の風ー3



翌日の公休日、珍しく休みをとった鳳珠と[#da=2#]は街へ出ていた。

仕事がないかといえば山積みではあるし、[#da=2#]からも出仕するんでしょう?と言われていたのでその予定だったが、
晏樹に絡まれた話を聞いた柚梨から
「絶対に[#da=2#]ちゃんと一緒にいて甘やかしてあげてください!!絶対に!!!!!」
と文字通り怒り狂って言われて休みにしたのだった。


「今日も本当に仮面じゃなくてよろしいのですか?」
外出のときにたまに使う綾絹の布で目から下を覆った鳳珠を見て、[#da=2#]は何度も確認をする。

髪の毛を高い位置でまとめて肩から前にかけて流している耳元に布越しに口付けて

「携帯仮面は持っていくから大丈夫だ。それに、このほうが話をするときに近いだろう」
と鳳珠は悪戯っぽく囁く(どのみち、声も問題になるので耳元で囁く予定だが)。

「・・・」
ボンっと赤くなって「お、お手柔らかにお願いします…」というのが精一杯だった。


夜、二人きりの時みたいでドキドキする。

声もうっとりさせる凶器なんだからほどほどにしてよね…と思いながらなんとか収めようと、大きく深呼吸しながら恨みがましくチラッと見上げると喉の奥で笑っていた鳳珠と目があった。


もともと邸でゆっくり甘やかそうと思っていたが、せっかくなら少しだけ出かけたい、と言われて街歩きとなった。

「皆さんへのお土産のお菓子を先に買っておきたいです。人気の品は早く行かないと売り切れてしまうので」
と言われ、俥を目当ての菓子店の近くにつけ、先に侍女たちへの土産の菓子を買って俥に置いてから、ゆっくりと回る。


宝飾品を扱う店の前で、[#da=2#]の足が止まったので入ってみることにした。

目をキラキラさせて見ている様子が可愛くて
「欲しいものがあれば買おう」
というと、
「いつも鳳珠がくださっているから大丈夫です」
と答えながら、ゆっくり見て回っていた。


普段からそんなに華美に飾ることもしないし、もともと[#da=2#]に贈っている宝飾品は黄家の販路で手に入れた最高級品の一点ものオーダーメイドだ。

この店の品は使っている石はそこまでではないが、意匠がいい。

店主はもちろん気が付いているが、「いらっしゃい」と言っただけで必要以上に話しかけてこないところも悪くない。

参考にと思い見ながらふと簪の意匠が浮かんだので、次の贈り物はそれにしよう、と思って[#da=2#]を見たら、シンプルで玉飾りのように花が連なった簪を見ていたが、行ったり来たりして2つを見比べているようだった。


「どうした?」
近づいて小声で話しかける。

「いつもいただいているのが豪華なので、街歩きの時はこういうのも悪くないかと思いまして」

石や色がついていない分、大人っぽくも見える簪の金と銀を見比べていたらしい。


黄色や桃色、紅の石色との相性で金の飾りを渡すことが多いし、今日の衣装の柑子色こうじいろにはなんとなく金かなと思ったが、黒い髪には銀も映えるな、と思いひとつ手に取り、質と状態をしっかり確認してから、店主に購入の意向を伝える。


[#da=2#]がそんなつもりはなかったとか、申し訳ないとかいろいろ言っているのを
「私が[#da=2#]につけてもらいたいのだからもらってくれ」
と言いながら髪に刺してやると、ありがとうございますと小さな声でお礼を言ってくれた。



その後も目に付く店の方に吸い寄せられて少し前を歩く[#da=2#]の美しくもまた可愛らしくもある姿に、多くの人が振り返って目を奪われている。

(全く…)
後ろから寄って、そっと右手を取る。

「ちゃんと捕まえていないと、どこかに飛んで行ってしまいそうだ」
指を絡めると、きゅっと弱い力で握り返してきた。


[#da=2#]は少し背伸びして、鳳珠の耳元で囁く
「ちゃんと捕まえていてくださいね」
シャラリと揺れる簪の音と共に、可愛い声が耳に流れてきた。


美しく可愛らしい少女と大人が同居した女と、背の高い覆面だが綺麗そうな男の仲睦まじい様子に、見ていた者は老若男女問わず赤くなり俯いたのは言うまでもない。



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