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緑の風−2



戸部に着いてから、他部署で行ったのと同様に昨日の件を詫びる。
鳳珠も柚梨も、思い出して少し眉間に皺を寄せていたが、柚梨が「[#da=2#]ちゃんの所為ではありませんから」と慰めてくれた。


「そもそも、珠翠殿と[#da=2#]がいながら、なぜ昨日の人選だったんだ?」
鳳珠が気になっていたことを尋ねる。
邸で話していたのに敢えて聞くということは、黎深と柚梨に聞かせたいのだろう。

「昨日の仕事の手が離せず、珠翠がその下の者に選ばせてしまったんです。当人は実はやりたいと前から言っていたようで、それを汲んで指名したと…下に任せてしまった珠翠とわたくしの落ち度です。ただ、任された方の資質も問題でしたね。なまじ後見が強くて序列が高いので…」

先程の黎深との会話を思い出し、ふと黎深の顔を見ると口の端が上がっていた。
(あぁ、これはやはり…)
[#da=2#]は完璧に先程の話の意図を理解する。


「人選はうまく進みそうなのか?ったく、兄上のところになんぞうろうろしているからがこうなるんだろうが」
苦々しい顔で黎深がぼやく。

「その件はわたくしも一緒にやりますので…ところで紅尚書、この人選の他、わたくしどもで何かしておくことはございますか?」

(もしかしたら鳳珠には話していないかもしれないけれど、それであればうまく指示を出してくれるだろう。黎深様の狙いは把握していると思うけれど、面と向かってまだ言ってこないと言うことは、ある程度は確認しておかないと後が危ない)

「そうだな、全て、見ておけ。全てな。筆頭女官の力は借りねばならないだろうが…あの者なら問題ない。今回のことを理由に、うまく話してほしい。」
「かしこまりました。ご報告はどのように?」
「[#da=2#]が吏部に来い。茶を飲みながら聞こう」
「かしこまりました」

鳳珠は黎深と[#da=2#]の一見よくわからない会話を聞きながら、一つのことに思い当たった。

「黎深、吏部査定の件だが…”全て”やるのか?」
「フン…早いな」

「分かった。どのぐらいになるか出たら教えてくれ。あとの仕事があるからな。あぁ、それと柚梨、[#da=2#]は正式に戸部と兼務になった。侍郎付きにされていたので、よろしく頼む。」

[#da=2#]はさっと柚梨に向かい膝を突き礼をした。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、[#da=2#]ちゃん」


”ちゃん”に反応した黎深が扇を投げんばかりの勢いで柚梨を見るが、娘を見ているかのようにニコニコ笑う姿に毒気を抜かれて手を下ろした。

「[#da=2#]、府庫に行くから付き合え」
「はい。では、失礼いたします。」
苦笑いしながら頭を下げる。


普段の雰囲気とは全く異なる時間を過ごし、二人は出て行った。
「仕事が増えるな…悪いが、これも二人でやることになりそうだ、頼む」
とつぶやく鳳珠。

「私は”あなたの”補佐ですよ。この局面で任される仕事は鳳珠からの信頼の証と思えば嬉しいものです」
いつものように、柚梨は穏やかに答えた。



「兄上」
普段と異なり、真面目な顔の黎深が顔を出す。後ろには桃華。
邵可はその様子を見て、「奥の部屋で話そう」と立ち上がる。


「わたくし、お茶を淹れますね」
”父茶”が出る前にさっと準備をするために外した隙に、黎深は小声で話し始めた。

「兄上、あの人を借していただきたい。こちらから手を下すことはさせないが、後宮で邪魔が入った時に[#da=2#]を守る者がいない」
「[#da=2#]を守るのはわかるが、私は珠翠にはもう何もさせたくないんだよ。彼女を拾ってしまったばっかりに、随分と危ないことをさせてしまった。」
少し辛そうに邵可は遠くを見る。

「危ないことはさせません。表向きは筆頭と次席女官の仕事、もしもの時のためです。次席の[#da=2#]一人にやらせるのも立場的におかしなことになる。”影”はつけていますが、後宮にいるときに狙われると咄嗟の時に私も鳳珠も駆けつけられない。[#da=2#]のためには彼女だけが頼りになる。」

そして一度切って、冷たい声で言った
「兄上、あなたは[#da=2#]が可愛くないんですか?」

正直、貢献をしている自分より、手元で育てていた黎深の方が[#da=2#]
のことをよくわかっているし、可愛がっているだろう。
ただ、それを言ってしまうと、[#da=2#]の立つ瀬がなくなるのはわかっていたので、黙って受け入れる。

「分かった。ただし、表向きでもくれぐれも無茶はさせないように。二人に何かあったら私は相手が君でも本気になるよ」
「・・・はい」
「珠翠には私から言っておこう。表向きの仕事については[#da=2#]から話すのだろう?」
「いえ、私も同席して話します。[#da=2#]は理解はしていますが、まだ明確に指示は出していない。これから彼女を呼んでもらいます」

お茶をいれて戻ってきた[#da=2#]が、いつにない深刻そうな様子に少し首を傾げながらお茶を出すと、邵可から
「すまないが、珠翠をよんできてもらえるかな?二人に話がある。」
と言われたので、すぐに後宮に向かった。
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