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緑の風−2



「黎深、鳳珠。吏部と戸部を任せます。今回の件で何が起こっても決して揺らがぬよう、しっかり手綱を握っていてください」

聞かされた悠舜の言葉の意味は黎深も鳳珠も聞かなくても理解していた。
”悠舜のために”、”朝廷にいる二人”、やるべきこと”は自ずと決まってくる。





[#da=2#]はいつものように外朝仕事で吏部にいた。
「紅尚書、こちらをお願いします。」
普段、自分が来た時と違い、すこぶる機嫌の悪い黎深は黙って受け取る。

今日も黎深の前の机は書簡が山積みだ。
いつか”お茶をしたいからお仕事しましょう”と言ったら黎深が仕事をしたので、絳攸に頼まれて言うのも[#da=2#]の役割だ。


机の山を見ながら(そろそろ時期かしら?)と思っていた[#da=2#]へ、黎深が
「茶を淹れてくれ、少し話がある。」
と言ってきたので、
「ほんの少しでいいからお仕事してくださいね」
と言って、用意を始める。


しばらくして吏部官が一人来て、「しばらく誰も寄せるな」と言われて仕事が終わった一山を押し付けられていたが、尚書室の外から黎深がまたも桃華が来た時に仕事をしたことに対する叫び声が聞こえた。
吏部官吏の間で、”神様仏様[#da=2#]様”と呼ばれていることを本人は知らない。



「ここに」と指された尚書机の空いた場所にお茶を出す。
近くの椅子に座り、黎深の話を待つ。とにかく機嫌が悪い。

「昨日寄越したあれはなんだ?」

[#da=2#]は黎深の言いたいことが全てわかり、大きくため息をつく。「も、申し訳ございません…」

そう、昨日は後宮で優先する仕事があり、別のものが書簡を外朝に届けていたのだが、女官服でもなくさらに華美に着飾って、あちこちの部署で年頃の官吏に声をかけたりやらかしたりしたので、昼になる前に苦情が何件も来ていたのだった。

1日が終わる時には四省六部全ての侍郎からと、それ以外の高官からも文句が出て、今日は[#da=2#]が仕事がてらお詫び行脚をしているのだった。


「午前中は四省全てお詫びして参りました。午後も各部を回っております。この度の不手際、無礼な振る舞い、申し訳ございませんでした。本来でしたら筆頭女官がお詫びに上がるところですが、諸事情によりわたくしでお許しいただければ幸いでございます。」

女官の礼できちんと詫びる。
だがこのことは、後宮にとって貴族の出がほとんどの後宮女官でも、使えない人はいる、と言うことを如実に表した事件でもあった。


「それから、昨日は助けに来てくださりありがとうございました。」

それについては何も言わない。

「当たり前のことをしただけだからな。それより、[#da=2#]と同じぐらいの…いや、せめて普通に役割ができる女官はいないのか?規模の割に無駄に人が多いばかりだろう?」
パチン、と扇子を自分の肩に当てて黎深は聞く。

「その件につきましては、わたくしどももそのように思っておりますので、一両日中に決めてご挨拶に伺いたいと思います。」

実際、今日は珠翠が人選をしていて、戻ったら打ち合わせ予定だ。戸部の手伝いはできないとすでに鳳珠には話してあるし、そちらを優先するようにも言われている。


「後宮女官は彩七家とそのほかの貴族とどちらが多い?」
「そうですね…後見人がどちらか、という観点でいくと、梨園は碧家一門が圧倒的に多いですし、筆頭、次席、それに次ぐ数人はご存知の通り紅家が多いです。それ以外はそういえば七家外…貴族派官吏が後見の方が大半ですね。」
「そうか…わかった」

一見、普段と変わらないが、黎深の目が光ったのが[#da=2#]には分かった。

「代理の者に対するご希望はございますか?」
「…他の部でも聞いたのか?」
「まさか!先程のご質問で、何かお考えがあるのかと思いまして。」

こういう時に、身内ながら女官にしておくのは惜しい、と思う。はっきり言って、[#da=2#]は秀麗より出来がいいことを黎深は知っていた。

「ふっ…なら言わなくてもわかるだろう。決まったら挨拶に来る前にすぐに連絡を。」
「かしこまりました。それでは、失礼いたします。」
「鳳珠に用がある、一緒に出よう」



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