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緑の風−2



その後、少しの段取り確認をして、それぞれの仕事に戻っていった。
「一度後宮に戻るだろう、送る」
と鳳珠は[#da=2#]を(黎深から引き剥がすために)エスコートしてさっさと出て行った。


「あの・・ありがとうございました」
[#da=2#]が立ち止まって見上げるので、鳳珠も立ち止まる。
わずかに首を傾げた鳳珠を見て、きっと”何がだ?”と言いたいんだろうなぁと思い、仮面越しのそんなわずかな表情を読み取れているかもしれないと思うとなんだかとても嬉しくなってくる。


「私が一番欲しかった答えを、鳳珠が下さったから」
小さな声で伝える。
邸で二人きりだったら確実に抱きついているだろうと思うけれど、外朝でするわけにもいかず、言葉だけに止める。

「言っただろう、”私が全力で守る”と。[#da=2#]に物理的な危険が襲った場合はもちろんだが、[#da=2#]の”心”も含めて、全てを私が護る。この件が頭の悪い愉快犯なのか、大きな悪の組織が絡んでいるかわからんが、何がきても私が守る。絶対に。」
心に誓いながら鳳珠が告げる。

「ありがとうございます。わたくしは、貴方が守ってくださるとわかっているから、何にでも立ち向かえる気がしますわ。そしてそれももちろんなのですが・・・きちんと働く理由を下さって。貴方のおそばにいることを優先したくて官吏になる気はないと中途半端なことを言っているわたくしに、それでもしっかり働いてもらうと言ってくださって、役目を与えてくださった。今までのお手伝いと違って、景侍郎にもきちんとお話ししてくださることを主上と悠舜様にご了解もとってくださって。」
少し目が潤んでくる。
「ありがとうございます」



「それをいうなら、私からも礼を言わないといけないな」
クスリと笑って鳳珠が答える。

今度は[#da=2#]が??となる。
「戸部を・・・いや、私を選んでくれてありがとう。私の気持ちがしっかりと伝わっていたことが嬉しい」
耳元に口を寄せる
「邸にいたら抱きしめてるな」
きっと[#da=2#]は赤くなって照れるだろうという悪戯心。

[#da=2#]が背伸びしてくるので、少し屈んでみる
「わたくしも・・・お邸で二人きりでしたら確実に抱きついていますわ」

・・・
天然なのか手練手管を覚えてきた[#da=2#]にこちらが赤くなる番だった。


「一度、戸部に寄ってもらってもいいか?」
誤魔化すために出た言葉は、なんとも色気のないものだった。



[#da=2#]を連れて戸部に入ると、官吏たちは少し目を見張ったが特段驚きもしなかった。
「おはようございます。失礼いたします・・・」
[#da=2#]も挨拶をして入る。

優秀な侍郎は官吏たちに今日の指示を出していた。
「柚梨、ちょっと」
声をかけて「しばらく部屋に入らないように」と周りに言い尚書室に向かう。
「おはようございます」と挨拶をしながら二人も続いた。


仮面を外して柚梨に向かう。
「また初めから全て話すと[#da=2#]が疲れるので、端的に言う。今日から[#da=2#]がしばらく戸部の手伝いを正式にすることになった。主上と尚書令の許可は得ている。妙なところからケチがつかないように、書面も出してもらうつもりだ。」
「わかりました、よろしくお願いしますね、[#da=2#]殿」
柚梨は理由も聞かず、ニコニコと答える。

「ここからが本題だが・・実は贋金が市中に出回っているようだ。ちょうど新貨幣の話が上がっていたようなのだが、急いで進めないといけなくなった。[#da=2#]の役割は主上、尚書令、吏部、工部、戸部の橋渡しだ。普段の業務の延長に見えるので不信感がない上に、この機密には後宮女官で吏部尚書の一族で、その・・・私の妻であると言うことからも最適だ、と言うこともあるのだが・・・。」
一度息を継ぐ。


「だが・・実は、悠舜たちはすでに知っていたようなのだが、黄家からきた書簡で贋金が出回っているのではないか、と気がついたのが[#da=2#]だ。暗号と意味をたった2日で解いてこのことが明るみに出た。このことは最高機密なので誰にでも言えるわけではない。私たちが関わるのは新貨幣側だけだが、万が一、下官などに書類の橋渡しをする際に見られて悪用されたら一貫の終わりだ。それで、確実にできる桃華に確実に橋渡しをしてもらうために、通常業務がない時は、この件と合わせて戸部の仕事を手伝ってもらう。そういう事情なので、基本的には尚書室か侍郎室での仕事にしたい。」

話を聞いて途中から柚梨の顔つきが変わる。

「わかりました。でもその贋金・・・大きな組織が動いていたら、そこに気がついた[#da=2#]殿は危険なのでは?」
心底心配して尋ねる

「だから、戸部だ。私が守る。そして、戸部にいるからにはきちんと働いてもらう。[#da=2#]もそれを望んでいるしな」
「はい、お役に立てるかわかりませんが、精一杯がんばりますので、どうぞよろしくお願いいたしますね、景侍郎」
[#da=2#]はニコリと笑って礼をする。


「お二人が決められたことなら、私は何も。・・・そうだ、せっかくだから私も名前で呼んでもらえませんか?これから一緒に働くのですから、お近づきの印に」

「え、と・・・」
(なんかここのところ毎日名前で呼べとかおじさまとか呼べと言われている気がする・・・)

[#da=2#]の顔に戸惑いの色が出たのを見て、大方ここ数日のことを考えているのだろうと気がついた鳳珠が
「柚梨”様”とでも呼べばいいのではないか?」
ニヤリと笑って助け舟を出してくれた。

「では、わたくしのことは、”[#da=2#]”と呼んでくださいませ。鄭尚書令も紅尚書もそう呼んでくださっています。」
と頷きながら模範解答で答える。

「そんな!ひねくれ鳳珠と結婚してくれた貴重なお姫様を呼び捨てにはできませんよ!でもそうですね・・・私は、[#da=2#]”ちゃん”で」
穏やかな笑顔でぶっ込んでくる景侍郎。

「覚えておこう」と低く呟く鳳珠。怖いです・・・
吹き出しそうになるのを堪えて「よろしくお願いいたします、柚梨様」と答えた。
景侍郎でなければ許容されない発言だなぁと思ってクスリと笑った。


後宮に一度戻ると[#da=2#]が部屋を出た後、
「柚梨、もう一つ伝えておくことがある。」
「もしかして…言おうとしているのは御史台、ですか?」
さすが鳳珠の片腕の辣腕侍郎、話から推察したようだ。

「先ほど、貴方は”私たちが関わるのは新貨幣側だけ”とおっしゃったので、贋金探索の方は別のところが・・・となると御史台がすでに動いているということかと思いまして。」

「さすがだな」
「まぁ新貨幣側だけなら[#da=2#]ちゃんは大丈夫でしょうが、それより彼女が戸部にいることの方で彼女や鳳珠が言いがかりをつけて狙われたりしなければいいのですが」

「後宮は内侍省管轄だが、王が了承しているといえばそれで問題ないだろう。まだ頼んでないが、吏部から兼務で書面も出してもらおう。どのみち、妃嬪もいないのにあんな大きな後宮を持っていて、中の人間も含め持て余している状態だ、後宮女官と冗官を一掃したら随分費用が浮く。」
鳳珠は少し遠い目をしてつぶやいた。





「[#da=2#]、よくきたね!ちょうど食後のお茶にしようと思っていたんだ、一緒に飲もう!」
いそいそとお茶の用意をする黎深。
(やっぱり・・・)
想定通りのことになりガクッとなりそうになるが、そこは笑顔を貼り付けて「いただきます」と答える。

「[#da=2#]にフラれてしまったから兄上のところに慰めてもらいに行こうと思っていたんだけれど、いつもの仕事でもう一度来ると思ったから待っていたんだよ」

(えっと、邵可様のところに愚痴を言いに行っても、多分戸部の方がいい、とおっしゃると思うんだけどなぁ)

紅家を出てからの方が、黎深の気持ちが読めるようになってきていることに[#da=2#]は気づいていない。
ちなみに、黎深も桃華が嫁いでから[#da=2#]愛が秀麗並に上がっているのだが、黎深自身も気がついていない。


「どうぞ」と出されたお茶をいただく。
「美味しいですわ、黎深・・・おじさま・・・」
口元がムニムニしながら、かろうじて”おじさま”を捻り出す。ここでいつも通り呼んだら帰してもらえないこと確実だ。
デレっと気味の悪い笑顔で破顔する黎深。

「ああ、なんで[#da=2#]は戸部に行っちゃったんだろうねぇ。私の元の方が安全なのに・・・」
「鳳珠様も守ってくださるし、それに、わたくしが戸部にいても、”影”はつけられるでしょう?」

「当たり前だ!鳳珠は当てにならん!」
「そんなことはございませんけれど・・・でも、黎深・おじさまが心を砕いてくださっているから、より安心ですわ。」
にっこりと微笑んでおく。

「しかし悠舜め・・・」
(贋金の件、まだ鳳珠に話していなかったとは)

「この後はどこを回るんだい?」
「尚書令と兵部、戸部の順です」
「悠舜に話がある。一緒に行こう」
真面目な顔をして黎深が立ち上がり、二人は吏部を出た。


尚書令で悠舜に書簡を渡して「失礼します」と桃華は出て行った。
「護衛ですか?」
「いや、悠舜に話があって来た。例の件、なぜ鳳珠に話していなかった?昨日、鳳珠の邸で聞く前に聞かされていただろう。」

「色々と思うところがあったんですよ。明日の宰相会議で、新貨幣鋳造の議案をかけましょう」
答えにならない答えをし、悠舜はこの話を打ち切った。

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