紅の企み
「お顔の美しさだけが、黄尚書を形成しているわけではないでしょう?」
そもそも、黎深から訳もわからず連れてこられた府庫
そこには主である邵可殿と、後宮女官が二人。
黎深のわがままで割り込んで茶を飲むことになった・・・
兄と二人きりになりたい黎深がわざわざ自分を連れてきたこと
そこに普段接点がほとんどない者がいる時点で
何かおかしいとは思っていたが、まさか悪戯に仮面を外されることになるとは思いもよらなかった。
[#da=2#]の言葉で黎深がしでかした一連の流れで混乱していた頭が冷静になる。この者は、私のことを顔だけではない、と言っている・・・
仕事上でのやりとりを見聞きしたり、わずかに言葉を交わした程度しかないがかなり聡明でしっかりしている。
あまり軽口を叩いたりするタイプでもなさそうだし
柚梨なんかは気に入っているようなことを言っていた記憶もあるので
頭の片隅に意識はあったが、この顔を見ても動揺することなく
きちんと自分の意見を述べるとは・・・
まぁ聡明な者、であるからこそ、なぜ仮面をつけているかに気がついてこの言葉をくれたのかもしれない。
大体、ほぼ初対面に近いのだ。そこに何か思いがあるかどうかは別として・・・
「鳳珠、何か言ったらどうなんだ?」
黎深の言葉で思考に沈んでいたことに気がつき、顔をあげる。
目の前には小首を傾げた桃華と、それを暖かい眼差しでみつめる邵可殿と珠翠。
だが不遜な顔をしている黎深の顔を見た時、また怒りが湧いてきた。
「黎深、なぜ外した?」
「なぜ?久しぶりに君の麗しい顔を見たくなったからさ。」
これはやつの本心ではない。
ギロリと睨むと悪びれもせず続ける
「それとも、いたずら心で外したとでも思うかい?
兄上はお前の顔を知っている。
そして私がよく悠舜以外の人前で君の仮面を外すのは今日が初めてだ。
君の顔はそうそう晒せないことは誰よりもよくわかっているからな」
「ならなぜ・・・っ」
言い方は気に入らないが、それは確かにそうだ。
今まで好き勝手やっているが、仮面を贈ってくれることはあっても
人前で勝手に外すことはしない男だ。
だからこそ、わからない。
「兄上、せっかく入れたお茶が冷めてしまいます。飲みましょう」
仮面を取り返そうと手を伸ばしたら、何を思ったか黎深は懐に入れてしまった。
そしてこちらの質問にはろくに答えず、邵可殿の左側に座る。
「早く座れ、鳳珠」
確かにこのまま立っているわけにもいかない。
携帯仮面をつけてもよかったが、この流れでつけるのおかしい。
さらに、一番窓際が黎深だ。仮面を外したままでも外から見えないように配慮している、と言うことか・・・
「黎深、人の嫌がることをするのは良くないよ。私はそんなことを教えたつもりはないのだが」
邵可殿が黎深を嗜めると、しゅん、と小さくなった。
「今日は・・・今日はみんなで仲良くお茶を飲みたい気分で・・・」
小さな声で黎深が答えると、前の二人が微笑んだ。
「黄尚書、すまないね、弟が・・・」
「いえ、普段の黎深はそのようなことはしないので・・・今後、知らぬ方のいる前でやらないと私に約束してくれるなら許しましょう」
正直、気持ちは収まらないし、許してなどいなかったが
桃華の言葉と邵可殿の取りなしで許さざるを得ない、というところか。
それにしても黎深の本心がまだわからない。
それがわかれば少しはスッキリすると思うのだが。
おそらく、二人に関する何かだろう、
後で柚梨にでも聞いてみるか、と思い、お茶と共に思いを飲み込んだ。
「お顔の美しさだけが、黄尚書を形成しているわけではないでしょう?」
他愛もない話を聞きながら、この言葉が鳳珠の心の中に何度も浮かんでいた。
いつも、顔しか見られてこなかった自分。
自分自身を見てほしいというささやかな願いは、この歳まで叶えられることはなかった。
いや、正確に言えば仮面を外した男や悠舜、邵可殿に他に数人はいたが。
少なくても女性からは己自身のみを見てもらえることなどなかったのだ。
もしかしたら・・・という期待と、期待しすぎることへの不安
続きを聞きたいような、聞きたくないような気分でいる。
私としたことが、何を期待して・・・
そもそも、黎深から訳もわからず連れてこられた府庫
そこには主である邵可殿と、後宮女官が二人。
黎深のわがままで割り込んで茶を飲むことになった・・・
兄と二人きりになりたい黎深がわざわざ自分を連れてきたこと
そこに普段接点がほとんどない者がいる時点で
何かおかしいとは思っていたが、まさか悪戯に仮面を外されることになるとは思いもよらなかった。
[#da=2#]の言葉で黎深がしでかした一連の流れで混乱していた頭が冷静になる。この者は、私のことを顔だけではない、と言っている・・・
仕事上でのやりとりを見聞きしたり、わずかに言葉を交わした程度しかないがかなり聡明でしっかりしている。
あまり軽口を叩いたりするタイプでもなさそうだし
柚梨なんかは気に入っているようなことを言っていた記憶もあるので
頭の片隅に意識はあったが、この顔を見ても動揺することなく
きちんと自分の意見を述べるとは・・・
まぁ聡明な者、であるからこそ、なぜ仮面をつけているかに気がついてこの言葉をくれたのかもしれない。
大体、ほぼ初対面に近いのだ。そこに何か思いがあるかどうかは別として・・・
「鳳珠、何か言ったらどうなんだ?」
黎深の言葉で思考に沈んでいたことに気がつき、顔をあげる。
目の前には小首を傾げた桃華と、それを暖かい眼差しでみつめる邵可殿と珠翠。
だが不遜な顔をしている黎深の顔を見た時、また怒りが湧いてきた。
「黎深、なぜ外した?」
「なぜ?久しぶりに君の麗しい顔を見たくなったからさ。」
これはやつの本心ではない。
ギロリと睨むと悪びれもせず続ける
「それとも、いたずら心で外したとでも思うかい?
兄上はお前の顔を知っている。
そして私がよく悠舜以外の人前で君の仮面を外すのは今日が初めてだ。
君の顔はそうそう晒せないことは誰よりもよくわかっているからな」
「ならなぜ・・・っ」
言い方は気に入らないが、それは確かにそうだ。
今まで好き勝手やっているが、仮面を贈ってくれることはあっても
人前で勝手に外すことはしない男だ。
だからこそ、わからない。
「兄上、せっかく入れたお茶が冷めてしまいます。飲みましょう」
仮面を取り返そうと手を伸ばしたら、何を思ったか黎深は懐に入れてしまった。
そしてこちらの質問にはろくに答えず、邵可殿の左側に座る。
「早く座れ、鳳珠」
確かにこのまま立っているわけにもいかない。
携帯仮面をつけてもよかったが、この流れでつけるのおかしい。
さらに、一番窓際が黎深だ。仮面を外したままでも外から見えないように配慮している、と言うことか・・・
「黎深、人の嫌がることをするのは良くないよ。私はそんなことを教えたつもりはないのだが」
邵可殿が黎深を嗜めると、しゅん、と小さくなった。
「今日は・・・今日はみんなで仲良くお茶を飲みたい気分で・・・」
小さな声で黎深が答えると、前の二人が微笑んだ。
「黄尚書、すまないね、弟が・・・」
「いえ、普段の黎深はそのようなことはしないので・・・今後、知らぬ方のいる前でやらないと私に約束してくれるなら許しましょう」
正直、気持ちは収まらないし、許してなどいなかったが
桃華の言葉と邵可殿の取りなしで許さざるを得ない、というところか。
それにしても黎深の本心がまだわからない。
それがわかれば少しはスッキリすると思うのだが。
おそらく、二人に関する何かだろう、
後で柚梨にでも聞いてみるか、と思い、お茶と共に思いを飲み込んだ。
「お顔の美しさだけが、黄尚書を形成しているわけではないでしょう?」
他愛もない話を聞きながら、この言葉が鳳珠の心の中に何度も浮かんでいた。
いつも、顔しか見られてこなかった自分。
自分自身を見てほしいというささやかな願いは、この歳まで叶えられることはなかった。
いや、正確に言えば仮面を外した男や悠舜、邵可殿に他に数人はいたが。
少なくても女性からは己自身のみを見てもらえることなどなかったのだ。
もしかしたら・・・という期待と、期待しすぎることへの不安
続きを聞きたいような、聞きたくないような気分でいる。
私としたことが、何を期待して・・・