緑の風−1
追加のお酒とつまみの用意をする凛の背中に、[#da=2#]が話しかける。
「凜、話の流れとはいえ、少しややこしい話になっていると思いますので、わたくしたちはこちらで少しお話ししませんか?」
厨房の横に小さな机と椅子が二つあったのを見て提案する。
「おそらく、悠舜様もその話を今日するつもりはなかったと思うのですけれど…申し訳ございません。」
「いいんじゃないでしょうか、旦那様達は常にお仕事のことを考えるお立場ですし。もともと[#da=2#]とゆっくりお話がしたくて旦那様に今日のことをお願いしたのですから。あ、ただお酒が…」
「頃合いを見計らって、わたくし持っていきますわ。」
少しずつつまみながら仕事の話を避けて、自分たちのことや夫との出会いを話していく。
「凜は長く悠舜様のことを慕われていたのですね、茶州が安定しないからと必死でお仕事されて、見事安定されてから結婚の申し込みをされるなんて素敵ですわ」
[#da=2#]は少しうっとりとした表情をしてから
「でも、お辛かったでしょうね」
と少し暗い表情でつぶやいた。
自分の身に置き換えたら、10年も鳳珠を想って…鳳珠であれば凛の悠舜への気持ちのように想い続ける自信はあるが、想いが強くなりすぎて狂ってしまいそうだ。
「ふふ、そうだね。でも、年月を重ねれば重ねるほど想いが強くなって諦めきれなかったから…これではいけない、最後にもう諦めようと思った時に言われたので、嬉しさより驚きが強かったね。」
そのことを懐かしんで遠い目をする凛。
「だから今が本当に幸せだよ、好きな仕事もして、大好きな旦那様といられて」
「凜の宮城でお見かけするキリッとした表情も素敵ですけれど、今みたいに悠舜様を想われている時の柔らかい表情、わたくしとても素敵だと思いますわ。」
[#da=2#]が眩しそうに凛を見つめる。
「ところで[#da=2#]は鳳珠様とどうやってお付き合いに?あのお顔を最初に見た時、大抵の人は倒れると聞くけれど?」
凛は素直に聞いてみた。”悪夢の国試”での話は有名だし、悠舜からも本人に会う前から鳳珠の顔にまつわるエピソードはたくさん聞いている。
「後宮筆頭女官の珠翠と、府庫の邵可様のところでお茶をしていたときに、黎深様とお二人でこられたんです。その時に、黎深様が勝手に仮面外してしまって、珠翠と二人できっかり10秒、固まりましたわ。」
思い出してフフフと笑いながら続ける。
「わたくしそれまでは心動かされる方には出会っていませんでしたが、お仕事については尊敬しておりましたし、お顔とお話しした感じでその日のうちにはきっと惹かれていたのでしょうね。自覚したのはじめたのは翌日以降にお会いしてからでしたけど。お顔だけがあの方の全てではない、と思っていますけれど、お顔も好きですよ。」
「美しすぎるお顔で苦労されてきたから、そうでないところを見られた[#da=2#]に好意を持たれたのね。それに、なんと言っても[#da=2#]も美しくて可愛らしい。聡明だけれど庇護欲を掻き立てられるというか…」
「それは凜に対して悠舜様もそう思われていらっしゃるのでは?もしかしたら、年齢差もあるのかもしれませんわね」
二人でクスクス笑い合う。
「そろそろお酒を持っていきましょうかね」と立ち上がったところで
「女同士で楽しそうだな。凜殿すまない、お酒をお願いできるか?こちらの話は終わったので戻ってきて欲しい。悠舜が寂しがっている。」
と鳳珠がやってきた。
「鳳珠様、お遣いだてして申し訳ございません。」
「いや、脚のこともあるから、私が行ってくると言ったんだ。一緒に戻ろう」