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桃色吐息


湯浴みから戻ってきたら、[#da=2#]は何か作業をしていた。
「[#da=2#]も行ってきなさい。それは何をしているのだ?」
「あ、これは・・・髪紐を作っていたのです。では行ってきますね。」
箱に入れ机の端に寄せて、そのまま出て行った。

黄色い組紐にいくつかの紅水晶と黄玉。
横には以前贈った桃色の組紐がある。
どうやら、同じような意匠で色違いを作ろうとしているらしい。
仕事をするつもりもなかったので、
寝台のうえに座り、手慰みに続きを作り始めた。


思ったより熱中していたらしい。
「鳳珠?」
と声をかけられた時にはだいぶ時間が経っていて、夜着姿の[#da=2#]が覗き込んでいた。
「これ、ほぼできあがったと思うが?」
「すごい!綺麗に仕上がっています!わたくしが作るより上手ですわ」
と喜ぶ。

「外朝で随分声をかけられているみたいだな。その対策の一つか?」
「えぇ、大体の人はあなたの妻と知っているみたいなんですけれど
 知らなかったり信じていない方も多いみたいで」
「毎朝一緒に行っているのに?」
それは心外だ、と鳳珠は驚く。

「わたくしたち、朝は早いから同じ時間帯の方は限られていますからね。
 もう少し、見た目から黄家の者とわかってもらう方がいいかと思いまして。わたくしは背が低いので、頭の上の飾りは男性からは目につくでしょう」
「意外と計算しているんだな」
でももっと、わかりやすい方法を・・・

「いっそのこと、いつも着ているあの生成りのあの服を黄色にするか?」
「エェッ、官吏でもないのに、準禁色ではまずいのでは?」
[#da=2#]は急にオタオタしはじめた。

「私の妻なのだから問題ないだろう。流石に勝手に変えると後々面倒だから、王に確認を取っておいてくれるか?」
「わたくしがですか!?」

「ん?私がいくのか?そうだな・・・愛する妻がモテすぎて心配なので黄色い服を着せて戸部尚書室で囲っておきたい、とでも、直訴でもするかな、フフフ、あの王の反応が見ものだな」
「・・・もぅ・・・わかりました、私からお伺いしておきますわ」
[#da=2#]は髪紐と入れていた箱を片付けながらそう答えた。

「おいで」
枕を背に座り、桃華を呼ぶ。
足を広げてその間にすっぽりとおき、後ろから抱きしめる。


「いつも私ばかりヤキモキしているな」
耳元をぺろっと舐めて鳳珠がいう。
「んっ・・どうして?」
「若くて美しくて愛しい妻は評判の的で、言い寄る男どもが絶えない。いつか若くていい男の誰か連れ去られそうで不安だ」
[#da=2#]の肩の上に顔を乗せてギュッと腕に力が入る。

「結婚した今の方が不安に思うなんて。そういえば、黎深に冷血仮面捻くれ男のどこが良かったのか?と聞かれていたけど答えを聞かせてもらってないな」

(あ、聞かれてた・・・)
今度は逃げられない。振り返り芸術品のような顔を見る。
そもそも、普段は仮面姿とはいえ、この超絶美人に自分も含めて勝てる人なんていないし、仮面を被ったりひねくれたりしているところもあるかもしれないけれど、比べてはいけないが捻くれ者の権化みたいな黎深様とはずいぶん違う。

仕事に対しても、黎深様や景侍郎など心を許している人に対する向き合い方はとてもまっすぐな人だ。
そして自分にも。

「わたくしは、捻くれ者と思っていませんもの。」
「そうか?」
「いつもまっすぐですわ。お仕事も、その・・・」

[#da=2#]は人差し指をそっと鳳樹の唇に当てる。
「?」
不思議そうな顔をして鳳珠は目を上げた。
「わたくしにくださる、愛情も・・・」

恥ずかしさからパッと前を向き続ける。
「ご存知ないかもしれないけれど・・・
 女官の間で鳳珠は実は人気があるんですよ。」

そう、官吏からは(秀麗除く)鬼畜人でなし冷血仮面男と言われているが・・・
「わずかに出ている首の美しさと手の美しさから”仮面の下は実は美しいのでは?”との声もあって。黎深様もですけど、お若くして尚書になられているでしょ?だけど性格があぁな黎深様と違って、仕事は厳しいけどきちんとなさる方で佇まいが優美というのは知られているから、きっと素敵なんじゃないか、と人気があるんですって。」
と一気に告げた。

「不気味な仮面尚書でもか?顔も見たことないし、私の何を知っているんだ。不思議なもんだな」

「あら、わたくしもはじめに顔だけじゃないって言いましたでしょう?それに、鳳珠も人気は結婚してから上がっていてよ。目ざとい人にだけですけれど、指輪のことも知られてしまいましたからね。茶州の方ににそういう風習がある、ということを知っていた人からわかったみたいで、”妻を大切にする素敵な尚書”として後宮では評判。お近づきになりたい方も多いとか。」

そう、そうなのだ
「あわよくば、という方もいて、わたくしもそれを聞くと不安になりますわ。鳳珠は・・・こんなに愛してくださっているのはわかっているけれど。」
言ってから恥ずかしくなって下を向いてしまう。

正直、この話は鳳珠を驚かせた。
自分に人気が、はともかくとして、ずっと若い[#da=2#]が同じような悩みを持っていたことに。
「心配はしなくていい。私には[#da=2#]だけだ。不安なら、何度でも言い聞かせてやる。[#da=2#]、愛しているよ」
「わたくしも・・・」
と小さい声で答える[#da=2#]を、もう一度ギュッと抱き寄せる。
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