桃色吐息
そのうち鳳珠が片手間でやっている黄家の仕事をしてもらいたい、という話は出ていたが勉強の間は今まで通り、ということした。
鳳珠としては男ばかりの外朝に出したくはないが、そもそもの所属は後宮なので戸部の手伝いはやめる代わりに邸に帰って家宰から勉強、と決まったのだった。
朝は一緒に、帰りは鳳珠の仕事が早く終われば一緒に、残業の時は一人で帰る、という予定で日々を過ごすことになった。
ただ、何にせよ夫は宮城内で1、2を争う忙しい戸部の尚書である。ほぼ帰れない。
それでも最低でも週に1度は癒し系のできる男・景侍郎が変わってくれて
一緒に帰るのを死守していたが、それが精一杯だった。
後宮に住み込みだったときは問題なかったが、最悪は車寄せで男どもに捕まる、と言うことが増えてきていた。
仕事中はともかく。俥寄せで捕まると微妙な待ち時間がある時は振り切るわけにもいかず、言い寄られることも増えてきた。
おそらく、本気で言ってきている人はいないだろうと[#da=2#]は思っていたがどうやらそうでもなかったらしい。
[#da=2#]から見れば、立場、家格を考えれば黄尚書を敵に回そうなどと思う馬鹿な男がいるとはそっちの方が驚きだ。
さらに悪夢の国試組は揃って高位高官。その絆は有名だというのに。
[#da=2#]との関係はさておき、吏部尚書に話が回れば、一発で首が飛ぶ。実際、身内ということはあまり知られていないのだが。
「それで、言い寄られてお前はなんと答えたんだ?」
行きの俥の中で、不機嫌さ全開で鳳珠はいう。
「んー?結婚しておりますので、だったかな?」
「だったかな、とはなんだ!無意識で変なこと言ってないだろうな」
いつも[#da=2#]にはすこぶる甘いが、こういう時は怖い・・・と思っていると、ボソッとした声が聞こえた。
「何のために指輪を渡したんだか・・・」
「え?」
「いや、なんでもない。そうだな・・・珠翠殿と同じ断り方をしたらいい。”想う方”じゃなくて”愛する夫がおりますので”ってな」