黄色の想い
鳳珠は今日も遅くに邸に戻った。
黄家の仕事は家の者が主に処理しているが、それでもいくつか鳳珠のところに回ってくるものもあるので、こなしながら夜を過ごす。
カタン
と音がして振り返ったところに、紅い衣が見えたが入ってはこない。
「貴様、また使用人を丸め込んで入ってきたな。訪れるなら普通にきたらどうだ?」
無言で黎深は部屋に入る。
邵可に宥められて少しは落ち着いたとはいえ
不機嫌さ全開でどかっと座った様子に鳳珠はため息をつく。
「で、何のようだ?」
「お前は・・・私に言うべきことがあるのではないのか?」
言われなくてもわかっている。
実際、付き合いを始めたことをどう黎深に切り出すかこの2、3日はずっと迷っていた。
相手が悠舜であればサラッと告げて終わるところだが
何せ常識では測りきれない黎深だ。
[#da=2#]に被害が及ばないようにもしないといけない。
そう思って先に邵可殿に話したが、それが良かったのかもしれない。
おそらく、黎深は邵可殿に聞いてからここへきただろう。
もし聞いていなければ怒鳴り込み状態のはずだ。
「・・・」
「ダンマリか?」
何も言わない鳳珠に黎深がさらにイライラし始めた。
ここは下手にあれこれ取り繕うより、事実を素直に言うのが一番だろう。
「[#da=2#]殿とお付き合い、を始めた。後見が邵可殿と聞いたので、ご報告にいき、了承いただいている。」
「そうか」
またしばらく音のない時間がすぎる。
黎深は何を考えているのか。
「君は・・・」
思いのほか、黎深は悲しそうに言った。
「君はどうして、自分から私に言ってくれなかったのか?」
(おや・・・)
どう見てもいつも通りの尊大な感じにしか見えないが、鳳珠の目からは黎深が少し萎れているようにも見えた。
言葉の裏にある気持ちが見えた気がして、苦笑いする。
(いつの間に、こいつの考えることがわかるようになってしまったんだか・・・)
「そうだな・・・少し、照れがあったのかもしれないな。腐れ縁の君に改まって言うのが」
少し茶化しながら本心を返す。嘘はついていない。
黎深が垣間見せた本心に気が付かないふりをするが、同じ想いを返す。
指摘することは得策ではない。
「[#da=2#]は君なんかにはもったいないぐらいの女性だし分家で両親も早く亡くしているがそれでも紅家の姫だ。その・・・よろしく頼む」
「黎深・・・」
人に物を頼む態度ではないが、あの黎深から”頼む”の言葉が出てきたこと事態、明日は槍が降ってもおかしくないだろう。
「あぁ、もちろんだ」
黎深がいるときにこんな空気になったことは一度もないぐらいしんみりとした空気を破ったのも黎深だった。