黄色の想い
さらにひと月ほど経ったころ、かなり遅くなったある日、送りがてら
「少し寄り道をしても?」
と聞き、頷いたのを見て帰りに外朝の中庭に出た。
「ちょうど桜も咲き始めたし、月も綺麗だったから」
と仮面を外す。
「お顔を拝見したの、久しぶりですわ」
「そうだな・・・この時間なら誰もいないだろうし、夜は遠くからはよく見えないだろうから問題ない」
[#da=2#]は、美しい顔越しに月を眺める。
ぽろりと一粒涙が出た。
「どうした?」
鳳珠が親指でそっと涙を拭う。
「月と花と黄尚書が美し過ぎて・・・なんだか遠くに行ってしまいそうと思って・・・」
小さな声で呟かれた。
「遠くに行ってしまったら悲しいと思ってもらえているなら嬉しいな。だが・・・」
[#da=2#]はふわりとした感覚と視界に黄色の衣だけが入り、一瞬何が起こったかわからなかった。
すぐ上から美しい声がする。
「私はあなたと共にいたいと思っている。
だから、どこへも行かない。」
[#da=2#]は恐る恐る顔を上げてきた。
驚いたような、戸惑ったような表情。
初めてみる表情に可愛いと思いながら、もっと色々な顔を見たくなるのは
惚れた弱みか。
「[#da=2#]殿が好きだ。私と一緒にいて欲しい」
いろいろ考えていた割に、シンプルな言葉が出た。
[#da=2#]はさらに固まってしまったが、少ししてから
「わたくしも・・・黄尚書をお慕い申し上げております」
と消え入りそうな声で答えてくれた。
「鳳珠、だ」
「え?」
「私の本当の名前は、鳳珠だ。二人の時はそちらで呼んで欲しい」
「鳳珠、様・・・」
「[#da=2#]・・・」
もう一度、今度はぎゅっと抱きしめる。
「それから」
懐に手を入れ、用意のものを出し、[#da=2#]の高く結んでいる髪に巻く。
「本当は簪を贈りたかったのだけれどあなたが外朝に来るときはとりあえずはこの髪型だから髪紐にした。つけてくれると嬉しい」
[#da=2#]は結んでやった髪紐にそっと手を当てる。
「小さい石がついているのですね、嬉しいです。必ず」
と言って微笑んでくれた。