黄色の想い
「鳳珠、私は今日はこれで上がらせていただきますね。今日の分の残しはないはずですので、鳳珠も早めに上がってください。この時期しか早く上がれないんですから、少しは休まないと」
「わかった、先ほど持ってこられた仕事を片付けたら終わりにする」
前回といい今日といい、[#da=2#]殿が来た日は機嫌がいい・・・
ということに気がついている柚梨は「それでは、楽しんで」と言い残して去って行った。
吏部と戸部とは残業地獄で屍が積み上がっているという印象だったが今日も戸部にはそれらしい人がいない。
(時期的な嵐の前の静けさ、ってところかしらね。)
程なくして鳳珠が戻ってきた。
「点検に付き合わせて悪かった。その・・・またお茶をお願いしてもいいか?そこの赤い箱のを頼みたい。」
と少し遠慮がちにいう。
「はい」と返事をして準備に取り掛かる。
カタリ、と音がしたので振り返ったら仮面を外した黄尚書が
自分をじっと見つめていた。
(あぁ、やっぱり麗しい・・・)
惚けてしまいそうになるのを神経を使って阻止する。
この美しさに何も感じなくなることはないだろうけれど、3度目ともなると少し耐性がついてきた感じはする。
お茶を出して席に座る。
「そろそろここに来る時期かと思って、用意しておいてよかった」
といいながら、乾燥果物と木の実の入った焼き菓子を出されて、目を丸くする。
(私のために・・・!)
「好きだと言ったお菓子・・・嬉しいです、ありがとうございます。早速いただいてもいいですか?」
「もちろん」
サクッと、でもしっとりとした食感
「美味しい!!」
思わず大きな声で言ってしまったら
「それはよかった」と微笑んでくださった。
「これだけ美味しければ評判になっていそうなものですが初めていただきました。あまり外には出ないのでよく知らないのですが貴陽のお菓子なのですか?」
「ん?あぁ・・・まぁ、な」
(何か様子が・・・あぁでも美味しい)
蕩けそうになりながらお茶もいただく。
前回とは違い甘い香りのする紅茶だった。
お菓子ととてもよく合う。
(もしかして、お茶との合わせも考えてくださったのかしら?
さすが黄家の手広いお商売でいいものが手に入るのね)
「昔からそういう菓子が好きだったのか?」
「いえ・・・わたくしは紅州の出なので、その・・・みかんかすももばかりでしたわ」
鳳珠は少し眉間に皺寄せる。
みかんはともかく、すもも・・・
「紅尚書の御一族か?」
紅家、ではなく黎深様の名前で聞かれる。
「え?あ、はい、だいぶ遠いですが・・・両親が早く亡くなったので、それを聞いた邵可様が引き取って後見してくださいました。ただ、邵可様と一緒に住んでいたわけではなくて本家の方におりまして、少し手伝いをしながら学ぶ、という感じで。絳攸様とは立場は違いましたし、育てられ方も違いましたね。横で勉強はしてましたけど。」
それから、幼い頃の話をしたり、”悪夢の国試組”の話を少し聞いたりしながらゆっくりとした時を過ごした。
(お声が美しいのもあるけれど、お話も本当に楽しい・・・こんな時間がまた持てたら幸せなのに)
「お茶とも合って美味しいです。黄尚書、本当にありがとうございます。今日のお手伝いだけではお礼が足りないようなので、何かお役に立てることがありましたらお声がけくださいませ」
言ってから、はっと手で口を押さえる。
(私ったらなんてこと・・・!そもそも女は外朝で働けないし、少数精鋭の戸部でこんな役に立たないのがいても迷惑だろうに・・・)
恐る恐る顔を上げて黄尚書を見ると、少し驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
「そうだな・・・私がしたくてやったことだからお礼については気にしてくれなくてもいいのだが・・これから少し忙しくなるからこうした時間を持つのも難しくなるかもしれないと思っていた。時折こっそり手伝っていただくのは悪くないな。ただ、戸部は知っての通りだが?」
「ご迷惑をおかけしないように頑張りますわ」