黄色の想い
自室に戻った[#da=2#]はふぅ・・・と大きく息をついた。
いつも通り各部への仕事。
戸部に行くのはいつも終わりの方ではあるけれど、最後にしたのは、もしかしたら黄尚書とお話をできるかもしれないと無意識下で思っていたのだろうか。
(なんてこと・・・)
先に寄った吏部で昨日のお礼をお伝えしようとして声をかけたところ黎深様から謎のお遣いを頼まれた。
思い返してみれば、昨日から黎深様も変だ。
邵可様のところへ来るのはまぁいいとして
私たちもお茶に誘ったこと
黄尚書もご一緒だったこと
尚書の仮面を勝手に外されたこと
今日、突然お遣いを頼まれたこと
「わからないわ・・・」
一言呟いてみる。
思えば、黎深様は邵可様の真似をして絳攸様を拾われたりと普段の行動は謎なことが多い。
邵可様と百合さんと絳兄様、そして秀麗以外は興味のない人なのに。
「考えるだけ無駄か」
黎深への思考はそこで切れ、もう一人へ移った。
紅家に連なる端くれとして、黎深様の天つ才はよく知っている。
その方が榜眼及第だったことが紅家に激震がはしった。
(後で邵可様から理由を聞いた時は、あぁやはり黎深様だ、と思ったけれど)
黄尚書は探花及第だというから、やはり頭もいいしお仕事の能力はずば抜けて高いのだろう。
奇人とか厳しいとかいう世間の噂はさておき仕事の能力の高さ、早さ、正確さと人の能力のギリギリを見極める審美眼について純粋に尊敬している。
ただ、官吏ではない自分との接点はほとんどなかったので、書簡受け渡しの事務連絡以外当たり前だがまともにお話しする機会もなかっただけだ。
敬意を持っていた方とひょんなことから会話をできるようになれば、それは誰しも浮かれるものだろう。
(また話がしたい、と言ってくださった・・・)
ふわふわした心地になる。同時に、黄家直系で仮にも尚書のお立場にある人、自分のような身分の者が浮かれた気持ちになっていることに気持ちが沈んでいく。
(私ったら、一体・・・)
戸部への用事は週に1、2度。また行くこともあるだろうが、”魔の戸部”公休日も出仕しているような忙しい尚書と必ずしもお話しできるわけではない。
あの聡明な方とお話ができるのは嬉しく思うが、それでも少し浮かれた自分が恥ずかしくもあり情けなくもありふるふると2、3回頭を振って、意識を変えるために本を手に取って読み始めた。
後宮といっても妃嬪がたくさんいるわけではないし
女官の仕事は珠翠が仕切っているので、桃華の仕事は外朝との連絡が大半だ。
あれから数日後、外朝に持って行く書簡を周る順番に整理していたら戸部あてのものをみつけた。
(戸部は吏部と同じぐらい忙しい。早い時間にお届けするのは迷惑になる・・・)
少しざわつく心を落ち着けるように、言い訳のように息を吐いて一番下に書簡を置く。
(お仕事に厳しい方だから、せめてやることはきちんとやらないと)
今の時点では悪く思われていなさそうなので、人として呆れられるようなことにはなりたくない。
浮かれた気持ちを引き締めて荷物を持って出かけた。