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紅の企み

夕方近くなって、戸部官吏が出払い始め、柚梨と二人になった頃に、「失礼します」との声で[#da=2#]が入ってきた。
手には幾つかの書簡。
「[#da=2#]殿、お久しぶりですね。今日はどのご依頼で?」
柚梨が楽しそうに声を掛ける。

「私どもからの依頼はこちらです、黄尚書のご決済をいただきたく」
と柚梨に書簡を一つ手渡した。
「先に確認させていただきますね」
柚梨は机に広げ読み始めた。

「それから・・・」
[#da=2#]がこちらをまっすぐに見て歩み寄ってくる。
「先ほど、吏部に行ってきたのですが、こちらを黄尚書に直接お渡しするように、と紅尚書から」
と木簡と袋を差し出す。

「アイツの書簡は捨て置いてくれ」
「でも、”必ず直接渡せ、受け取らなければ押し付けろ”とのことでしたわ。受け取っていただかないと・・・」
黎深の口真似が妙に似ていてふと笑ったら、柚梨が驚いた顔でこちらを見てきた。

「今の口調は紅尚書によく似てましたね。声の質もなんだか近い気がしましたよ。こんなこと言われても[#da=2#]殿は嬉しくないかもしれませんが」
柚梨が楽しそうに[#da=2#]に話しかけるのを見て妙な苛立ちを覚え始めた。
(いや、なぜこれだけのことで苛立つ?黎深からの書簡のせいか?
 戸部から直接依頼されることは昨日少し話が出た件以外はないはずだが)


ぱらりと書簡を開く。
そこには昨日話に聞いたことの進捗がさっと書いてあった。
すぐに頭を仕事に切り替え、今日処理した資料の中に、関連するものがあったのを思い出し取り出し、机の上に置く。
今の書簡の内容と照らし合わせて確認した後、黎深に届ければ、あとは向こうで処理するだろう。


柚梨と[#da=2#]は楽しそうに話をしていたが
こちらの処理が終わったのを見計らって、再度[#da=2#]が口を開いた
「こちらの袋なんですけれど、中にお菓子が入っているそうです。先ほどの書簡の件、早い方がいいので黄尚書に処理をしていただく間に私がお茶をいれて差し上げてその後休憩するように、と渡されましたわ。」

「エェッ?紅尚書が!!??」
自分の驚き以上に柚梨が衝撃を受けて立ち上がった。
黎深から物をもらうなど、仮面以外は前代未聞だ。


「でもあなたにお茶をいれさせるのは申し訳ないので私がやりましょう」
と柚梨は立ち上がったが、
「せっかくなので[#da=2#]殿にお願いしてもいいか?」
と口を挟んだ。
柚梨はお茶を淹れるのはうまいが、[#da=2#]殿に淹れてもらったほうが嬉しい。
(うれ・・しい?)

黎深の様子を見た柚梨は
「お菓子はいくつあります?」と尋ねている
「3つですわ。黄尚書、景侍郎の分と、私の分と3つ、と紅尚書が。」

柚梨はここへきて、薄々気がつき始めた。
昨日、紅尚書が鳳珠を連れてどこかへ行った。
今日、[#da=2#]殿がおつかいで鳳珠のところへ来た。
これは何か紅尚書の企みがあるに違いない・・・



「そういえば、今日はまだ宝物庫の点検にいけていませんでした。今から行ってきますので、私のお菓子は残しておいていただけますか?では、あとはお願いいたします。先ほどいただいた件は問題ないと思いますので尚書決済をもらってくださいね」
と書簡を鳳珠の机の上に置いて
「では行ってきます。先にお帰りいただいて構いませんから」
と尚書室の扉を閉めて去っていった。


「なんだあいつ、慌ただしい。せっかく[#da=2#]殿がお茶を淹れてくれるのに」
ボソッと呟く鳳珠。
「では、私は準備いたしますね。」
「あぁ、その間にこちらも決済しておこう」
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