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紅の企み


だいぶ酒が進んだところで、
「それにしても、あの二人が君の顔を見て割と平然としていたのには驚いたな」
黎深はもう一度話を蒸し返した。

「貴様、酔っているのか?その話はさっき・・・」
「珠翠の断り文句もすごいよな、それで結婚もしていない。まぁ・・・出来はしないだろうが」
と(いつものことだが)人の話も聞かず、失礼な言い草だ。

「そういえば、王が夜の華と珠翠殿を比べた話は・・・」
大方、彼の養い子から聞いた話だろうが。
「あぁ、絳攸がな。例の木簡事件の話をする流れで」
「藍家のボンボンも困ったのものだな」
私自身に何の関わりもないが、ふらふらと王を連れ出すのは後が面倒なのでやめてもらいたい。

グダグダとそんなくだを巻いているうちに
黎深が「酔ったから寝る」といい出した。
「その前に帰れ!!」
と言ったが、当然そんなことは聞かず、泊まる部屋を用意する。

客用の室にぶち込み、酒と水を置いて部屋を出た。
自室に戻ってフゥと一息ついた鳳珠は、今日のことをもう一度思い出す。



「お顔の美しさだけが、黄尚書を形成しているわけではないでしょう?」


きちんと己の顔を、目を見てキッパリと言い切った[#da=2#]。

あの時までこちらの顔を知らなかった彼女、会話らしい会話も交わしたことがない。
仮面尚書と言われる私の何を見ていた?


一度聞いてみたい・・・が、聞くのは怖い・・・
今までに持ちえなかった感情に支配されるのを振り払うかのように
残りの酒を煽る。
だが、それは嫌な思いではなく、戸惑いをふりきろうとする一杯だった。




翌朝早く、あまり眠れなかった鳳珠は早めに動き出し黎深を邸に返そうとしたが
「君は、あまり眠れてないな、昨日の件が気になったか?
 私を帰して遅刻してもいけないから、お前と一緒にここから出仕する」
と訳のわからないことを言い、同じ軒で出かける羽目になった。

(全く、勘弁してくれ・・・)

黄家の軒から降りてきた赤い衣に周囲は愕然とする。
そして、続いて降りてきた持ち主にも。
悪夢の国試組は実は仲がいい、というのは高官にはそこそこ知られているが、氷の長官と仮面長官が並ぶと関わってはいけないというのも不文律のため、さっと道がひらく。

まるで王が通る時のように。いや、動きとしては王の時より数倍も機敏かもしれない。
下を向きながら様子を伺う周囲には目もくれず、二人はそのまま自部門にもよらずに朝議に出た。



「いつも一番のあなたがこちらに顔も出さないとは珍しいですね」
柚梨が開口一番に言ったのはこの一言だった。
「紅尚書と一緒にこられたとか」
朝の一件はあっという間に広まったらしい

「酒を飲んで酔いつぶれて泊まって行ったからな、帰るより早いとそのまま来た」
鳳珠はぶっきらぼうに答えて仕事に取り掛かる。
いつものように書簡は山積み、次々と仕事が舞い込む有様だ。

(今日は機嫌がいいのか悪いのかわからない)
柚梨は時折鳳珠の様子を見るが、全く読めない。
いつものように猛烈に仕事をしているかと思えば、時折筆を止めて違うところへ意識を飛ばしている。
仕事の内容について考えている時の様子ではない。
(もう少ししたら休憩を取るようにして様子をみよう)
気のいい副官は年下の上司のために残りの仕事量を見ながら段取り忙しい戸部の1日が始まった。
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