序章〜1
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自称、5歳にして国試には合格できるという縹月華を押し付けられた皇毅は、毎日月華に宿題を出していた。
毎日は帰れないが、帰ったときにまとめて確認をする。
自称、と思っていたが言葉に違わず、一言も直すところがないどころか、皇毅の予想の上をいく回答を連発する月華に、うっそりとため息をつく日々である。
(これは、とんでもない拾いものかもしれない)
皇毅はそう思っているが、実は月華の方が一枚上手で、皇毅にドン引きされないギリギリの答えを毎回書いている。
(人としては桃仙人よりマシ、飛燕様も桃仙人は悪い人、って言ってたけど、皇毅様のことは特に何も言ってなかった)
というのが皇毅についての月華の評価の一つでもある。
そして”出仕”しているはずの時間に、ちょくちょく桃を持って現れる晏樹のことを、いつしか”桃仙人”と呼ぶようになった。
(仕事もしないで旺季様や皇毅様は何もおっしゃらないのかしら?)
それに、無闇矢鱈に縹家のことを聞いていくのにも辟易している。
もっとも、何を聞かれても知らぬ存ぜぬで返しているが、大概しつこいのでそろそろ面会禁止にしようかと思っているところだ。
そんな感じで過ごしていてはや一月ほど、葵邸で毎日課題をこなすのも飽きた頃、少し早い時間に皇毅が帰ってきた時を狙って、月華は動いた。
「わたくしに、何かできることはありませんか?」
「お前はまだ子供…何もないな」
皇毅の答えはにべもない。
「お願いします」
と家人に一言いうと、月華の顔だけが出る高さの衝立を家人が二人がかりで持ってきた。
「今から、化けます。この姿で外朝で侍童仕事ができないでしょうか?」
「そんな子供の侍童はいない。それに、飛燕そっくりの女子の顔で何をいう?」
(まだ飛燕姫で見られているのね。ならば)
と月華はニヤリと笑った。
「そのまま、見ていてください」
家人を使って(旺季に頼んだだけともいう)外朝の侍童の衣装に、衝立の裏側で着替える。
髪をまとめているうちに、皇毅が見ていた飛燕姫そっくりだと思っていた姿が、みるみる男児の姿になる。
「・・・」
「これでいかがでしょう、皇毅様」
衝立から出てきながら話す声も、先ほどまでの月華と異なる声。
声変わり前の違和感のない男児の声だった。
横で見ていた家人たちも「これは…」と小さく声を漏らした。
「その姿で、何をしたい?」
皇毅は自分の自尊心を傷つけないように、上から目線で問う。
舌を巻いた、どころの騒ぎではない。
一体どんな技を使ったのか…異能はないという話だったが、と心の中で忙しく考えながら、態度だけは鷹揚に構える。
「旺飛燕の代わり、旺季の駒」
一段冷えた声で、月華は口を開いた。
「どう使うかは、皇毅様次第ではないですか?だから旺季様…お父様が”皇毅さん”に託したのだと思いますけど?」
前半と後半の声が明らかに違う。後半は飛燕の声で月華は答えた。
「もう一度着替えます」と衝立の裏に入り、髪を解いて着替えていくと、元の月華の顔ー皇毅から見れば飛燕の顔に戻った。
すっかり姫の姿になってちょこちょこと衝立から出てくる。
「お時間をいただき、ありがとうございました。では、おやすみなさいませ」
綺麗にお辞儀をして、月華は室を出た。
残された皇毅は一つ、深くため息をついた。