序章〜1
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結局、押し切られた形(旺季に言われて断れないというのもある)で、皇毅は月華を葵邸に連れて帰った。
家人はまず月華の美貌に、それからここに住むとなったことに流石に驚いたが、顛末を聞いてすぐにお世話体制を組む。
旺季の養女ということで下っ端に任せるわけにもいかず、侍女長の千景が月華に専属で付くことになった。
「私物については行李一つできたようだから、明日は休みをやるので月華の必要なものを見繕ってやりなさい」
と旺季に言われた皇毅は、言われた通り翌日は休んで、月華と千景を連れて街に出た。
逸れないように月華と千景は手を繋ぎ、その横に皇毅が並んで歩く。
比較的庶民の子供に近い格好をしているが、それにしても月華への視線が多い。
「月華お嬢様は貴陽で一番の美少女と言っても過言ではありませんから、気をつけてください」
「そうか?そんな美少女には見えないが…」
と皇毅は首を傾げる。
「ご主人様、お言葉ですがご主人様の見る目がそれはおかしいです。昨夜、ご到着された際も、家人一同、その美貌にまず驚いておりましたよ!まだお小さいのにこんな美少女ではすぐに誘拐されて妓楼に売られてしまいます!」
と葵家の侍女頭にしては珍しく捲し立てるのもあり、旺季の養女になった娘にもしものことがあったら、と危険を感じた皇毅はしっかりと月華を抱き上げて歩き始めた。
仏頂面の男が抱き上げる美少女、という構図に、街の人たちは幼女誘拐かとピリつきながらこっそりと視線を送っていた。
初めは洋服屋、次は小物屋と順に回る。
今後、出歩かなくても済むように、ある程度話をつけて帰るので少し時間かかった。
月華の要望は、子供らしい桃色や杏色ではなく、限りなく白に近い縹色や蒼色の服ばかりだ。
千景は月華を普通の子供だと思っているため、色の指定以外は特に何も欲しがったりねだったりしない様子を少し不思議に思って見ていた。
「ご主人様、月華お嬢様のために、甘味処でも寄って差し上げてはいかがでしょうか?」
我が家の主人が甘味なんぞに興味がないことは重々承知していたが、月華のために勇気を振り絞って伝える。
月華が何もねだらないのは、仏頂面の皇毅が怖いと思っている、と千景は信じているからだ。
表情にはあまり出さないが、主人が悪い人ではないというのは家人としてよく理解している。
だが昨日来たばかりの月華には怖いと見えるかもしれない、と精一杯気を遣っているのだ。
「・・・」
それを聞いた月華の反応は、無表情だった。
(皇毅様は、そんな言葉に絆される人ではない)
というのが月華の評価だ。
だが。それに反して「そうか」と言った皇毅は、貴陽で一番の評判の甘味処に足を向けた。
ずっと影をつけていた晏樹が大喜びしたのは言うまでも無い。