序章〜2
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「大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
二人の声がして、月華はそっと目を開いた。
「え…?あの…」
「すみませんでしたね、まさか黎深があなたを突き飛ばすとは思いもよらず…止められなくて申し訳ないです」
抱きかかえてくれている人の横にいる温和そうな人が先に声をかけてきた。
「
抱きかかえてくれた人がそっと地面に下ろしてくれた。
黄色い衣を着ているが、それよりもその美貌に、大概のことでは驚かない月華でも、目が釘付けになった。
(す、すごい美人…)
二拍ほど間が開いてからハッと気がついて
「失礼しました、助けてくださってありがとうございます!」
と慌てて礼をした。
(今、この美人さん、女子か、って言った…?)
背中にヒヤリと汗が一筋流れた。
「鳳珠、女子かってそんな訳ないでしょう?まぁ確かに、この子も鳳珠に負けないぐらい美人ですから、女の子だったら引くて数多でしょうね?素顔でそうやって並んでいると…」
笑いながらもう一人が話しかけると、黄色い人がハッと慌てて顔に手をやった。
ふと足元を見ると、紐の切れた仮面が落ちている。
(さっき手に当たったのはこれだったのね)と月華は慌てて拾って差し出した。
「助けていただいた時に、僕が引っ掛けてしまったみたいです。申し訳ございません」
ポカンとしている様子を、頭を下げてずいっと前に差し出した。
「あ、あぁ、ありがとう」
「あの、この紐ほどいいものではないかもしれませんが、僕が作った組紐があるのでよかったら使ってください」
懐から、何かの時用に入れてあった、薄い銀糸で組んだ紐を出して差し出した。
「いや、そんな気にしなくてもいい。代わりなら…」
と答えるところを隣の男が遮った。
「せっかくだから受け取っておいたらいいじゃないですか。ほら、あんな申し訳なさそうな表情してますよ?」
「悠舜…」
ね、と笑顔で押されたのに負けたのか「ありがとう」と受け取ってもらえた。
「君はもしかして、四省の方にいる”小さすぎる侍童”って言われている子ですか?」
「多分、そうだと思います?」
「名前は?」
「雲です」
「雲くんですね。本当に先程はあの木の上の男がすみませんでした。私が後でたっぷり説教しておきますので、それに免じて許してもらえますか?」
「…はい、助けていただきましたし、大丈夫です」
納得はしないが、官吏に言われた以上、ここは引き下がるしかない。
軽く頭を下げておく。
「ありがとう、雲くん。私は鄭悠舜、こちらは黄…」
「黄奇人、だ」
仮面に渡された紐を通しながら、綺麗な人が答えた。
少し考えてから、おずおずと口をひらく。
「奇人様はほうじゅ様、ではないのですか?」
「なぜ?」
「先程、鄭官吏が”ほうじゅ”って呼びかけていらしたので」
ギロリと殺気だった視線で、仮面の男は隣を見た。
「すみませんね鳳珠、つい咄嗟のことで…まだ慣れないんですよ。それに、そう呼びたくないですし」
「はぁ…仕方あるまい。朝廷では黄奇人と呼ばれているから、そのつもりでいてくれ」
「かしこまりました、黄官吏」
(しかしなんで奇人なのかしら?仮面してるから?そしてあの人が鄭悠舜…飛燕様からもうすぐいなくなるって聞いてたけれど、そろそろなのか、それはまだなのね)
軽く頭を下げながら、ささっと情報も整理しておく。
「ちなみに、木の上にいるのは紅黎深、府庫の紅邵可様の弟になりますが、あの通りの性格なので近づかないほうがいいですよ。おそらく、大好きな兄上の姿を見ようとして、あなたが先にいたのが彼にとっては邪魔だった、ということです」
「本当に飛んだわがまま大魔王だな」
(あ、思ってること読まれた?)
パチパチと誤魔化すように瞬きをしていたのを見て、仮面をつけ終えてしまった黄官吏が
「誰もが思うことだ」
と付け加えた。
「黄官吏は綺麗なお顔しているのに、仮面で隠してしまうの勿体無いです」
思わず月華は本音が口から出た。
(しまった、思わず…)
ハッと口元を抑えたが、それについては特段咎められはしなかった。
「雲くんもそうかもしれませんが、この顔ですからね、色々言い寄られたり倒れられたりして面倒なんだそうですよ?」
鄭官吏が代わりに答えて、黄官吏はふん、と不機嫌そうにため息をついた。