第六章〜VS晏樹2
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柚梨がそこそこ遅い時間に帰ってきて軽い夜食をとっていると「お帰りなさい」と玉蓮が手に湯呑みを持って入ってきた。
「今日は早かったんだね」
「うん」
柚梨の前に座って、お茶を足して飲む。
「ねぇ父様、旺季殿ってどんな方?今は引退されているんでしょ?」
柚梨の表情が少し歪む。
「あぁ、そうだね」
「少し前にあった、謀反の首謀者、だとか…」
「それを、どこで?」
柚梨は慎重に言葉を選びながら確認する。
「吏部の、記録。仙洞令君が王様の養子になったことで政から退かれたと書いてあったよ。娘さんがお母さんなんだってね」
(吏部の記録でそこまで詳細に記したものがあったのか)
「なぜそれを見たんだい?」
「えっと、フワフワさんのことを調べようと思って。でも何も書いてなかったの。フワフワさんとハチマキさんと悠舜様のところに書いてあった共通の名前が旺季殿だったんだ。葵家は前の王様の時に族滅にあったんだってね」
(それも、見たのか…)
柚梨は一つため息をついた。
玉蓮の年齢では先王のことはなにも知らなくておかしくはないし、あまり耳に入れたくない。
これからの未来を背負っていく人たちに、あの争いは不要だ。
(だが…玉蓮は、貴族派に、というより旺季一派に近づき過ぎてしまったか)
柚梨はもう一度ため息をついた。
一年目の官吏がおいそれと話をする相手たちではない。
残念ながらそれには自分の立場があって一役買ってしまっているところがあるが、それにしても、だ。
一見、天真爛漫に育っている玉蓮だが、あの洞察力ではそう遠くないうちに誰かから上手く聞き出して知ってしまうことだろう。
「玉蓮、今から言うことは他言しない方がいいです。ですが、知っている人はたくさんいます」
「はい」
「先王はかつて、貴族の家を一つずつ潰していった。旺季殿はその時に生き残った子供を引き取って育てた、と言われている」
「・・・ハチマキさんの家も、フワフワさんの家も?」
「そう」
「鄭尚書令は?」
「…それはよくわかりません。彼の出自は調べたところで出てこない、と聞きましたよ」
「そう…でも、生き残った子を、どんな理由であれ引き取って育てたってことは、そんなに悪い人じゃないのかもね」
「・・・そう、かもしれません。でも、戦を起こそうとしたことは、ダメなことです」
柚梨は一瞬微妙な表情になったが、強い意志を持った顔で告げた。
それを見た玉蓮は頷いて、それ以上何も聞かなかった。
「父様ありがとう。父様が凌長官と揉めたことがある、って聞いたけど、きっと旺季殿に楯突いたと思ったんだろうね。詳しいことは何にも知らないけど、凌長官にとっては旺季殿がきっととっても大切な人で、そこだけは父様のことを許せなかったのかもしれないなって思ったよ」
(あぁ、やっぱりこの子は…)
柚梨は大きく目を見張って玉蓮を見つめた。
(決して黎深殿のように”天つ才”ではないし、鳳珠のように”努力と誠実さの人”でもないし、春麗ちゃんのように”何かを見通せる人”ではないだろうけれど…)
「玉蓮のその洞察力は、時として足元を掬われたり狙われたりする時があるかもしれない。特に、他人のことを他の人に今のように考察して話すのはいけませんよ、いいですね」
朝廷は足の引っ張り合い。
いつまでも自分や鳳珠たちが守れるわけではない。
まだ”子供”と見られているうちはいいが、聡すぎるのは命取りだ。
柚梨は心の片隅で心配していたことが表に出てきてしまったことを落ち着かせるかのように、ゆっくり呼吸してから玉蓮に向かって微笑むと、玉蓮はコクリと頷いて笑って見せた。