序章〜国試編
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(さて…)
武官を見ると、さして気にしていないような表情をして立っていた。
(わたくしのことは知っているはずなのに…)
いささか不思議に思いながら、近づいていく。
「こちらの棟は変わりはありませんか?」
待っている間に話しかけると、男の目が泳いだ。
「他の棟から、こちらの受験者が迷惑をかけていると苦情が出ていますが、何か気になることがありましたら教えてください」
「たまにさっきの男ともう一人の男、小さい娘が騒いでいるぐらいだな。他の女人官吏から、うるさいと苦情がきた。他の棟の訴えも、大方、それだろう」
(玉蓮姫が騒いで?そんな報告は一つもない…他の女人官吏から苦情がきた、と言うことは、今回の対象者が、ってこと?それに、他の棟でもそうだが受験者と武官の意見が違っている。これは何か…)
「あなた、お名前は?」
聞いて記憶している間に、先ほどの受験者がもう一人の男と、玉蓮を連れて戻ってきた。
「お待たせして申し訳ございません。私は藍州の馮海星、こちらは白州の管飛龍と、紫州の景玉蓮です」
三人並んで頭を下げてくる。
「わたくしは礼部の紅春麗ですわ。それで、先ほど、わたくしを待っていた、と仰ってましたが?」
「あぁ、ここに入ってすぐに、この景玉蓮の室が荒らされてな、筆を折られたり、料紙を破かれたりした。俺たちは外にいて戻ってきたら酷い有様だった。紙や筆はこっちの余りを渡したから大事ないが、その時に武官に文句を言ったんだが、この話は届いていないか?」
「まぁ、そんなことが!報告は上がっておりませんわね。すぐに代わりの筆と紙を用意しますわ。書籍類は大丈夫でしたか?」
「はい、大切な筆は大丈夫でした。ただ、勉強用のものをこちらの馮海星くんにお借りしたので…」
「わかりましたわ。代わりを用意して届けさせます。それで、その武官はなんと?」
飛龍に続けて尋ねる。
話を総合すると、到着した日に他の女人受験者に絡まれた上、数日後に先ほどの騒ぎがあったらしい。
苦情を上げたが知らないというばかりで掛け合ってもらえず、女に確認しても証拠がないということでどうにもならなかった。
またその武官はその後あまり見ていないということと名前だけしかわからないとのことだった。
「そうですか…わかりましたわ。受験者同士のいざこざは全て報告するようにしているのですが…すぐに確認しますわ。馮海星殿、管飛龍殿、見てお分かりの通り、景玉蓮殿は最年少の受験者です。どうしても弱い立場になってしまいますから、気にかけてあげてくださいね」
「はい。私たちもそのつもりでいます」
「お話しいただいた件はこちらで対処いたします。どこまでできるかはわかりませんが…」
「ありがとうございます」
海星がペコリと頭を下げた。
「それでは、また」
春麗は周囲の手前、軽く微笑んでから足早にその場を後にした。
「いや〜今のが噂の女人官吏?スッゲー綺麗だったな!」
「えぇ、その辺ではお目にかかれない、なかなか美人でしたね。後宮の妃嬪でもおかしくない」
「でも官吏なんだろ?才色兼備と言うのはあの子のことを言うんだろうな」
飛龍と海星は立ち去った春麗を話題にしている。
「紅春麗礼部侍郎、です。一昨年の国試…女人官吏が初めて誕生した国試の状元で…私の目標の人なんだよ。官吏になって二年目で侍郎になった比類なき方です。ちなみに、すでに結婚されてるけどね」
最後の一言に、二人は少し残念そうにした。