第五章〜VS晏樹
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「なんてね、私は信じてませんけど?晏樹が彼の方以外に興味を持つはずがない」
(彼の方?…でもここは聞かないほうが良さそうだ…)
玉蓮はよいしょ、と荷物を持ち直しただけで表情は変えなかった。
悠舜はそれには気にせずに続けた。
「でも、いちいち見かけるたびに絡んでいるともっぱらの噂ですよ?高官の間と吏部では話題になっているようですから。」
「噂って…なんか…不本意だ…こんな子供に…」
「そりゃ遣いに出るたびに絡まれている様子を見られていたら、噂にもなるでしょう?今のところ吏部から正式に苦情は来ていませんが、戻ってこれないと捜索隊を出さないといけないから困っている、という話は来ていますのでね。それから…」
悠舜は思わせぶりに少し間を置いた。
「それから、何?なんか黙っちゃったりして感じ悪いよ、悠舜」
「あと1、2年もしたらあっという間に大人の女人になりますよ、ね」
悠舜は玉蓮の方を向いて、にこやかに微笑むと、玉蓮は少し恥ずかしそうにはにかんだ。
その様子を見た晏樹は、いかにも面白くなさそうにそっぽを向いた。
「さて、先ほど私あての書翰を持ってくるところ、と言ってましたね?今から戻りますからご一緒しましょう。では晏樹、また」
「失礼致します」
玉蓮は晏樹に向かい丁寧に礼をしてから、悠舜の方を向き、一緒に歩き始めた。
だいじょうぶですか?と悠舜を気遣いながらゆっくり歩く玉蓮の後ろ姿を、晏樹はしばらく眺めていた。
「この僕に、そんな噂が立つなんてねぇ…やっぱりあの娘、不愉快だ」
懐の桃を出し、そっと香りを嗅いでから晏樹は踵を返した。
尚書令室につくと、葵皇毅が仏頂面(いつものことだが)で立っていた。
玉蓮は「失礼します」と言って入室してからそれに気がつき、そちらに向かって礼をとった。
「皇毅、あなたのいう通りでしたよ?昨日、凛からも話がありましたからね。というわけで、玉蓮殿は連れてきました」
「えっ??」
玉蓮はパッと顔を上げて、不思議そうに二人を見比べた。
「毎度毎度、私が助けられるとも限らないだろう?」
「・・・薄々感じてましたが、やはり助けてくださっていたんですね、ありがとうございます」
玉蓮は皇毅に頭を下げた。
「晏樹もこれであまり無茶はしないと思いますけどね、それでも困るんですよ、玉蓮殿は期待の女人官吏なのですから」
「だから私が情報を入れてやったではないか?」
「吏部からも少し聞いていましたよ。これ以上続いたら、正式に苦情を出すと劉尚書が。ところで皇毅、お気に入りのようですからあなたが御史台で使ってみますか?」
「いや…能力的にはいけるかもしれないが、御史台ではないな。悠舜もそうは思っていないだろう」
「えぇ」
自分のことを言われているとは思うが、どこか他人事のように玉蓮は少しぼんやりと聞いていた。
最も、この国の最高官たちの会話に入るほど身の程知らずではないつもりだったが、どうやら自分はまだ子供と思われていること、女人官吏であること、上位及第者、という以外にも注目の的らしい。
(まぁ、絡まれるのは面倒だけど、命を狙われているわけでもないからいいか…どうしてもの時は父様から鄭尚書令に相談してもらおうかと思ってたけど、志美ちゃんが動いてくれるならその方が仕事としてはいいか…それより、気にかけてくれる葵大夫の方がいいかな?)
ぼんやりと考えていたら、まだ話は続いていたらしい。
「まぁ気の毒ですよね、景侍郎の娘さん、ということだけで晏樹にあんなに絡まれて」
「えっ?」
「悠舜」
玉蓮はボヤッとしていた顔を一気に引き攣らせてパッと悠舜を見たと同時に、皇毅が嗜めたが遅かった。
それは、悠舜らしからぬ
はたまた、わざとだったのか、皇毅にはわからなかった。
「あぁ…景侍郎から聞いてませんか?これは余計なことを言ってしまいましたね」
「あの、なんのことでしょう?」
「言いかけてしまったので仕方がないので話しますが…以前、かなり重大なことを決める朝議で意見の対立があったんですよ。晏樹が出した意見に景侍郎が反対しましてね、だいぶ揉めたのです」
「そ、そうですか…でも、そんなことはよくあることではないのでしょうか?」
「そうです、意見の相違はよくあることです。でも、凌晏樹に楯突く、というのはなかなか勇気のいる行動なので…詳しくはいえませんが、貴女も変に楯突いたりしないほうがいいです。」
「・・・」
(わかる、ようでわからない)
玉蓮はちょっと首を傾げながら素直に思った。
「まだ今の時点では、こんな下っ端なので、凌長官からお声がかからなければ、自らお話しすることはないと思います。ですが、葵長官がいつも助けてくださっていたことと、鄭尚書令の今のお話で、注意しなければいけないということはなんとなく理解できましたので、もう今更遅いかもしれませんけど、気をつけます。ご助言、ありがとうございます」
ペコリ、と頭を下げてから顔を上げると、小さく頷いた皇毅が目に入った。