第三章〜研修編2
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
歩きながら春麗は進士たちに尋ねた
「みなさん、怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫ですが、なんだってあんなことやらされたんですか?」
いかにも体力がなさそうでばてていた進士が尋ねた。
「さぁ?孫尚書の指示って言ってましたね…わたくしの方から尋ねるつもりです。他の班の時はなかったはずですので…まぁ尚書の気まぐれだといいのですが」
玉蓮をちらりと見ると、流石に疲れた顔はしていたが、若い分だけ順応性と体力があったのか、他の進士たちの中では比較的元気そうだった。
(凌晏樹殿が絡んでないといいのですけど…孫尚書が尻尾を出すとも思えませんわね)
兵部に向かいながらひっそりとため息をついた。
案の定、孫陵王は
「特に意味はねーな。少しは体力つけてやった方がいいかと思いついたまでよ。まだ元気そうな嬢ちゃんもいることだしな」
と嘯いていた。
兵部侍郎の司馬迅や進士たちがいる手前、これ以上突っ込めないと春麗は仕方なく矛を収める。
それを見てニヤリと笑った陵王に、冷たい微笑みを浮かべて静かに言った。
「こちらを。魯尚書からの正式な抗議文になります。申し開きは孫尚書ご自身からお願いしますとの仰せです。本日は歩くのもままならない者もいるようですので、進士研修はこれまでとさせていただきます」
「魯尚書かぁ」
うへぇ、という表情の孫尚書に、それでは、とお辞儀をして春麗は退出した。
礼部に戻る道すがら、前から歩いてきた男を視界に認めた春麗は立ち止まって礼をとった。
男も春麗の前で立ち止まる。
顔を上げた春麗は「あなたたちは先に礼部に戻っていなさい」と進士たちに声をかけて促した。
「失礼致します」とお辞儀をしながら進士たちは大人しく従う。
「あいつらを返した、ということは何か私に用があった、ということだな?」
「えぇ…お引き止めをしまして申し訳ございません、葵長官。少しお伺いしたいことが…」
「なんだ?」
「先ほど、兵部研修中の進士たちが、羽林軍の武官研修に駆り出されまして」
「…なんだって?」
鉄面皮の葵皇毅の表情がわずかに変わった。
「先週までの研修ではそんなのなかったのですけれど、孫尚書のご指示だとか…今週の兵部研修は先程の者たちです。”そちら側で”何かお考えがあってのことかと思いまして…」
「ふっ、それは身に覚えのない疑いだな」
「そう、ですか…それは大変失礼致しました。孫尚書が景進士に目をつけていらしたようなので、少し気になりまして」
「景進士…景柚梨のあの娘か…晏樹に面白いことを言った」
「えぇ、そうです…凌長官が何かしら…」
「企んでいそうだな」
皇毅はしれっと言い放ち、春麗はやっぱり、と肩を落とした。
「ったく。相変わらず大人気ないやつだ、仕事の邪魔をしてすまないな」
「いえ…凌長官はわたくしに対してもいい印象はないでしょうし、景侍郎に対しても…できる範囲でなんとかしておきます。ご意見、ありがとうございました」
春麗はきちっとお辞儀をした。
「いや…晏樹が迷惑をかけたならすまなかった」
「葵長官は関係ありませんので、気にしていませんわ」
「まぁ確かに…だが前にも言った通り、あのバカに関わるのはよしておいた方がいい」
「はい、こちらからは何も…」
「それでいい」
いうだけ言って、皇毅は歩き始めた。
後ろ姿に一礼して、春麗は身を翻して足をすすめた。