第三章〜研修編2
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翌日の公休日、貴陽で安くて美味しいものを食べさせると若者に人気の店に、新進士の上位及第者ー状元・馮海星、榜眼・謝光泉、探花・景玉蓮、そして第二十七位の管飛龍が集っていた。
貴陽に明るくない地方出身者の三人と、貴陽生まれだがまだ十四歳の玉蓮がそんな人気のお店を知っているはずもなく、吏部研修だった馮海星が年の頃が近そうな碧官吏に聞いて教えてもらったらしい。
「今年は変なシゴキがない分、余裕だな。どこで誰に聞かれるかわからないから、個室にしておけよ」
と助言された通り、ちょっと奮発して個室を取っている。
「素敵なお店ですねぇ、海星くん」
「吏部の碧官吏に教えてもらった」
「おぉ。綺羅綺羅さんの親戚の碧家直系のお兄さんですね!初日に行った時に尚書のところまで案内してもらって、それから何度か話しました」
「え?碧珀明殿か?彼は若くて碧州の神童と言われていんだ。とても厳しい方と聞いていますよ」
光泉が口を挟む。
「直系の親戚の碧官吏が戸部にいらしてね、研修の後半、おじいさん碧官吏についてたから、色々教えてもらったよ」
出てきた采をつまみながら、話を続ける。
「噂じゃ、戸部は一悶着あったって聞いたけど、大丈夫だったか?」
「それが聞いてくれよ、マジ仕事きついんだわ。それで他の三人がもう無理だとか雑用は嫌だとか文句言って、魯尚書のおかわり研修がついちゃった、ってわけ」
采をつまみに昼酒と洒落込んでいる飛龍は、その時のことを思い出してブルっと身震いしてから
「いや〜あの時の黄尚書、怖かったよなー」
と玉蓮と頷き合う。
「でも、書翰周りも宮城の中のこと覚えられるし、早く他の部署の人とか、内容によっては尚書とお話しする機会もできるから、悪くないよね」
「ただ、重いもん持って走り回らされるから、体力がいるぜ」
「あと、いっぱい渡されるから、風呂敷も!」
キャハハ、と玉蓮は無邪気に笑って果実水を飲んだ。
飛龍はふと二人を見て、自分がやった資料室整理や書翰運びを思い出しながら、ふと不安になって言った。
「海星はともかく、光泉殿は細いから体力が心配だなぁ、結構、力仕事もさせられるんだぜ」
「なんか…一気に不安になってきました…戸部は”魔の戸部”って言われてるんですよね…」
と光泉のみならず、海星も不安そうな表情になった。
「”魔の戸部”??なにそれ?」
玉蓮が面白そうに聞く。
「尚書の見た目と仕事のえげつなさからそう言われているようですよ、吏部で聞いたんですけど、半年前までの吏部尚書の時は、戸部がどんなに頼んでも脱落者が多すぎるのと、絶対に戸部尚書が認める人なんていない、と新米か根性なしを叩き直す目的の人の配置をしてもらえなかった、とか。ここ数年で唯一残っているのは、戸部尚書補佐もしている礼部の紅侍郎だけのようです」
海星が吏部で聞いてきた話を披露した。
「まぁ…確かに、な。あの脱落を申し出た三人もそうだったけど、矜持の高い官吏ほど、反発心はあるかもしれないな」
「ちなみに、お仕事の指示はどんな感じなんです?」
光泉の問いに、んー、と玉蓮は少し考えてから、ニヤッと笑って徐に低い声を出した。
「”早速だが景玉蓮、そこの書翰の山を整理しろ。それが終わったら書翰周り、工部に行って”昼から飲んだくれている暇があれば仕事しやがれ酔いどれ尚書”と言ってこい。それから吏部と刑部にこの書簡を届けろ。吏部は尚書に直接渡してその場で決済を貰ってこい。その後、府庫に行ってこの3冊返して続きを5冊もらってこい”って感じ!」
「お前、よく覚えているな?」
「だって、びっくりしちゃったんだもの。最初はこれぐらいだったけど、だんだん周るところが増えていって、覚えるの大変だった〜誰か聞き返して怒られてたよ」
へらっとしながら光泉の方を向くと、「それ、紅侍郎もおんなじ感じですね、そこまで数は多くないですけど…」と呟いた。
「そうなのか?あの人、そんなふうに見えないが」
海星の問いに玉蓮が答えた。
「戸部尚書補佐、って言ってかたら、黄尚書とお仕事の仕方が似ちゃうのかもね?でも、礼部で体験してるなら、光泉殿は戸部も大丈夫そうだね」
「どうなることかと思ってましたが、少し安心しました」
と光泉は笑った。
「あ、でも俺ら、朝の掃除に行ってたんだよ」
「吏部もです。集合時間の前に、半刻ほど」
「えぇ?聞いてないですよ!?来週の戸部から行った方がいいかな…だが確かに、掃除は大切だし、我々は一番下っぱですからね。私もそうするようにします」
朝弱いけど大丈夫かな、と光泉は不安げにつぶやいた