第九章〜VS楸瑛
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(ったく。この人ほんと変わらないな)
珀明は目の前で歯の浮くような台詞を呼吸するように並べている楸瑛を見てうっそりとため息をついた。
女と見たら誰にでもそうしないと失礼だ、という言い分なのだろうが、玉蓮はあまり興味がなさそうに相槌を打っているだけだった。
(この様子、どこか既視感…)
と珀明は遠くを見て考える。
「凌、晏樹…」
ビクッと玉蓮が反応し、「凌こうも…じゃなかった、凌長官がどうかしたかい?」と楸瑛が視線を珀明に向けた。
「いえ、なんでも…」
軽く首を振って躱したころ、「到着しました」と馭者の声がして俥が止まった。
明らかに金を持っていそうな三人の官吏が(特に楸瑛)貧民街を歩く、ということで普段よりは質素な格好できたが、それでもやはり目立ってはいた。
帯剣している楸瑛が前に出ることで、襲われることはないが遠巻きに機会をうかがっている様子でもある。
「半分近くは火事で焼失した、と聞きましたけどあのあたりですかね?」
「だろうな。流石に瓦礫の山は撤去されたか…あの土地を活用したいところだな」
真面目な表情になり小声でヒソヒソと話す二人に楸瑛が視線を移した時、棒をふりかした子供が玉蓮に飛びかかってきた。
「うわっ」
パッと玉蓮が身を翻して子供を避けると同時に、楸瑛が子供との間に割って入った。
「大丈夫か?」
珀明が庇うように玉蓮の隣に立つ。
「だが俺は武はさっぱりだからな」
「護身術は貴陽で齧ってきたので大丈夫です。碧官吏を守れるかわかりませんが」
玉蓮の一言に驚いたように楸瑛が目を向けてから、子供の方に向き直り刀に手をかけた。もっとも、抜く気はさらさらなかったが。
明らかに強そうな雰囲気を見て、子供は身を翻して逃げていった。
「気づかなくてすまなかったね、なかなかな身の翻し方だったよ」
「わざと、ですか?」
珀明が普段より一段低い声で尋ねた。
「まさか。本当に気づかなかったんだ」
(子供だからと油断していたとはいえ、藍楸瑛ほどの武官が、あれに気づかないはずがない)
珀明は何が狙いかわからないが、と訝しげな表情を向けている。
「大丈夫ですよ、大人だったらわかりませんが子供だったので助かりました。碧官吏もありがとうございました。先を急ぎましょう」
玉蓮は不穏な空気を断ち切るように、仕事の顔に戻って、二人を促した。