第八章〜VS◯◯
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「こちらに着かれて最初の頃、春麗様はあまり眠れなかったようで。環境が変わって為と思って、貴陽の室で使っていた香を焚いたり、同じ素材の掛け布や枕を使ったりしたんですけどね、日に日に目の下のクマが濃くなっていて」
「あぁ、春麗ちゃん、目の下に出るんですよねえ」
瑞蘭の話に玉蓮は貴陽での様子を思い出して相槌をうつ。
「1週間ぐらいしてからでしょうか。ある日、朝起こしに行ったら、州尹邸の室にいらっしゃらないんですよ」
「えっ?」
玉蓮が前のめりになる。
「春麗様、実は朝弱いので、よほどのことが無い限りご自身で起きられることないですし、邸中探してもいらっしゃらなくて。州府の方にはまだ行かれていないと官吏の方に確認とってからもう一度探したんです。その時に、あるものがなくなっているのに気がついて」
「それはなんですか?」
「ちょっと、とってきますね。今ならありますから」
と言って、瑞蘭は出て行った。
程なく戻ってきて、春麗の前にポンと差し出した。
「あっ、これ!!…でもこれ、ほーじゅ様の兎なのに‥」
それは、玉蓮が鳳珠と春麗の結婚の際に、お祝いとして贈った指輪を入れるための兎のぬいぐるみだった。
鳳珠のには仮面を、春麗のには薔薇の花を耳の下に飾りとしてつけている。
凛に教えてもらって磁石をつけた箱を手で持っている形に仕上げたものだった。
「なんでも、貴陽を出る時に寂しいから、って交換してきたようですよ」
「ふふ、仲良しだなぁ。でも気に入ってもらってるならよかった」
兎を机に置いて、お菓子に手を伸ばす。
「こちらがなかったので、気になったんです。それで、ふと思いついて…ここ邸と御館様のご実家は庭づたいに隣同士なんです。木戸があって出入りできるので、そちらからご実家の方に行ってみたら…」
「春麗ちゃんがそっちにいた、と?」
「えぇ。しかもご自身のお室ではなく、御館様のお室で、兎抱えてぐっすり寝ていらっしゃいました。それから、毎晩おやすみになる時はあちらです。ご自身の室より御館様の室の方がよく眠れるようですよ。流石に、嵐の日はお止めしましたけど」
瑞蘭もくすくす笑いながら話した。
「この話、絶対鳳珠様が喜びそう」
「あら、そういえばまだお伝えしてませんでしたわ」
「ついたら文をかけって言われていたから、書いておきますよ」
薔薇の花のついた兎を抱えて眠る鳳珠を想像して、「鳳珠様の美貌だとウサギ持ってても似合っちゃうよね」と玉蓮は笑った。