第八章〜VS◯◯
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戸部で玉蓮が”三師の室”に行くと言った時、目的を伝えたものの、柚梨も仮面の下で鳳珠も微妙な表情になった。
「えっと?、父様?」
尚書室で鳳珠と柚梨と自分以外の人がいない、ということもあり、玉蓮は普段通りの確認をする。
「宋太傅もまぁいろいろ大概アレですけど…」
あまりはっきり物をいう方ではないが、それにしても奥歯にものの挟まりすぎた言い方をする柚梨に、玉蓮は首を傾げた。
「だな。玉蓮、私がついていこう。まぁ、ついていったところで私では狸を化かすことはできないだろうが」
「そうですね…宋太傅には玉蓮と同期の方がお世話になっていることもあるので、私からもお礼はしておいたほうがいいですよね」
と言って、いきなり連れ立っていくことになった。
「あの、鳳珠様と父様と一緒に歩くとまたいろいろ面倒そうなので、少し離れてついていきます」
「好きにするといい、その前に、何処か寄るところはあるか?」
「この書翰を、尚書令室に」
「それなら一緒にいても違和感ありませんね。こちらもありますから、いきましょう」
と柚梨が促して室を出る。
悠舜の室に入った時に、玉蓮は少し違和感を感じた。
元々、悠舜は元気溌剌!という感じではないが、いつも以上に覇気がないような気がしたのだ。
ただ、宮城で自分のような下っ端がそんなことを言えるわけもなく、気にはなったが黙っていた。
声をかけられ、風呂敷を広げて書翰を渡す。
「ありがとう」とかけられた声はいつもとあまり変わらなかった。
軽くお辞儀をして風呂敷を畳み始めた時に、「待て」と声をかけられた。
声の主は主上だった。
「はい」と答えつつ、頭を下げる。
(なんで声かけられたんだろう?父様たちと一緒だったから?)
と玉蓮はぐるぐると考える。
「その風呂敷は?」
と明後日の方向の問い合わせを受け、「はい?」と聞き返してしまった。
「その風呂敷の刺繍を見せてくれ!」
(えー?どういうこと??)
玉蓮はポカンとした表情になってから、ハッと気がついてそのまま差し出した。
ふむふむ、と言いながら手で触ったり裏を見たり、真剣に刺繍の研究をしている主上。
(王様。だよね?)
驚いたまま柚梨の顔を見ると、柚梨も首を傾げていた。
そのまま悠舜に視線を移すと、何やら笑っている。
(ここって一体どうなってるの?)
なかなか返してもらえない風呂敷を見つめていると、「これはやはり紅春麗の手か?」と聞かれる。
「はい、及第のお祝いにいただきました。自分で刺してくださったと聞いています。書翰運びの時に便利だから使うといい、と」
少しだけ嬉しそうに玉蓮は答える。
「あー、やはりそうか!黄州にやる前に教えて貰えばよかった!」
と叫ぶ主上に、悠舜が吹き出した。
「主上、私も半年ほど前にいただいたんですよ」
と追い討ちをかけるように懐から手巾を出す。
「これはまた随分凝っているな!李と梨と林檎の花か!」
とためつすがめつ研究を始める。
鳳珠は劉輝が気付かないうちに自分も懐から出してちらりと悠舜に見せると、悠舜の目が丸くなった。
(と、いうことはこれは黎深も持っていますね。春麗姫、やりますね…)
悠舜と鳳珠は顔を見合わせてお互いにニヤリとした。
その様子を嬉しそうに柚梨が見つめ、玉蓮は刺繍に釘付けになっている主上、という滅多に見ることのない姿に驚き半分、呆れ半分になっていた。