第八章〜VS◯◯
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ほわわわわ・・・と大きな欠伸をしてのびをした玉蓮に、母から「はしたない」と小言が入る。
「だって、ここのところつけ回されたりちょっかい出されたりはないんだけど、仕事がどーーんって降ってきちゃったんだもの」
玉蓮はポリポリと机の上の麻花をつまみながらお茶に手を伸ばした。
「父上ならまだしも、姉様みたいな新人でも、そんなにお仕事来るんだねぇ」
「吏部は尚書が変わって少し風通しが良くなったけど、まだまだ人が足りてないからね」
柚梨の声に玉蓮はパッと立ち上がり、「お帰りなさいませ」と貴族の子女らしく挨拶をした。
「はいただいま。玉蓮、ちょっと仕事の話がある」
「帰って早々に邸で仕事の話なんて、姉様も父上や鳳珠様みたいに仕事人間になっちゃったね。じゃあ僕は勉強してくるから」
柚梨の硬い表情を読み取った弟がサッと立ち上がると、母も一緒に室を出て行った。
その間に、玉蓮がお茶を淹れる。
「ありがとう、早速だが今日、劉尚書から話があったかい?」
「はい。来月から吏部の若手官吏が二人一組になって、各州へ一時的に派遣される、ということで、私は碧官吏と一緒に黄州と聞きました」
「実は春麗ちゃんが州尹になるのが決まったと同時ぐらいに鄭尚書令に話を持ちかけて決めていたようで、今日の朝議で決まったんだ。誰がどこに行くかは劉尚書に任せたようだけど、劉尚書は初めから二人は黄州と決めていたようだよ。もっとも、玉蓮に関してはおなじ女人官吏が上にいる方がいい、という理由だけのようだったけどね。期間はとりあえず半年ということだ」
「あー、志美ちゃん、それっぽいこと言ってた〜」
玉蓮は吏部内で説明と発表があった後、珀明と二人で呼び出されて「しっかりくらいついてきなさい」とハッパをかけられたのを思い出した。
「正直、まだ玉蓮を一人で出すのは心配なんだけどね、鳳珠はもちろん反対したけど、”黄州なら景侍郎の実家だし、鳳珠の邸もあるし春麗ちゃんもいるからいいでしょ”と劉尚書に押し切られてたよ。鳳珠から住むところは景家の実家と官舎、どっちがいいか聞いてくるように言われたけど?」
「ふぅん…まぁ外朝でもまだ”コドモ”って言われてるのに、地方に行ったら余計に女人官吏なんていないから風当たり強そうだものねぇ。ところで官舎って、春麗ちゃん以外は女の人いるのかな?」
「春麗ちゃんは州尹邸に住んでいるはずだよ。実家(うち)は州庁からそんなに遠くないし、祖父様たちが喜ぶから実家にしてもいいと思うけれど…玉蓮がかえって気疲れするかもねぇ。」
言いながら、柚梨は懐から二つ文を取り出して、玉蓮の前に置いた。
「こっちは春麗ちゃんから玉蓮にと言って鳳珠に届いた黄州のあらまし、だそうだよ。見せてもらったけどこれは役に立つと思うし、碧官吏にも見せておいた方がいい。こっちは鳳珠から玉蓮に、黄州の基礎知識、だと言っていた。これを見てわからないところがあったら出立前に私に聞くように、とのことだよ。」
玉蓮は瞳をキラキラさせて二つの文を取り上げた。
早速、春麗からの文を開く。
「あ、春麗ちゃんが、黄州はまだ正式な女人官吏がいないから、よければ州尹邸の室を一部屋用意してくれるって!」
ペラりと柚梨に文を見せる。
「あぁ、それで鳳珠が…さすが春麗ちゃんですね。でも碧官吏はどうするんでしょう?黄州碧家別邸は確か少し離れていたような…」
「ふぅん、さすが彩七家だねぇ、各州にお邸あるんだ」
どこか呑気に玉蓮は相槌を打った。
「碧家は芸術一族だから、題材の取材だったり、職人指導だったりで地方に散っているからね。各地に出身州の人が安く泊まれる宿も持っているはずだよ」
「そうなんだ。碧官吏のお邸も綺羅綺羅さんのところも豪華だって噂だし、さすがだね」
玉蓮は聞きながら、鳳珠の文とその下にあった冊子を手に取った。
「鳳珠様の御文は前置きが長そうだよ」
「全く、鳳珠が玉蓮を甘やかすのは昔からだが、春麗ちゃんのみならず玉蓮まで黄州に行ってしまったら、今以上に毎日心配して大変そうだ」
柚梨は年下の友人のここ最近の様子を思い浮かべて、困ったように笑いながらお茶に手を伸ばした。