第七章〜VS◯◯
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「さすがに少し疲れてきた…」
玉蓮は回廊横の四阿に座り込んで、ファと欠伸をした。
一見ただのサボりだが、午休憩の時間なので問題はないだろう。
春麗に頼んだ武術指南は、結局のところ護身術を学ぶということになり、三日に一回、後宮の庭で宋太傅と十三姫から指導を受けることになった。
動きたくてうずうずしていた二人にとっては、素人の女人ということで物足りないものの、それでも格好の気分転換となるらしく、春麗の依頼は二つ返事で了承された。
(吏部の仕事もあって、今日から護身術の練習もあって、さすがに眠いなぁ…それから、と…)
懐から小さな冊子を出し、キリッとした表情になってから、記載した内容を確認していく。
考えていたことはすでにまとめられて、清書まで仕上げている。
(だけど、これを一人で上げるのはまだ自信がない…父様はもちろん、鳳珠様や春麗ちゃんもダメだし、飛龍くんや光泉さんも春麗ちゃんに近い…海星くんがいたら頼みたいところだけど遠いし…碧官吏も同期だ…)
順番に頭の中で思い浮かべては消えていた人たちが一通り終わった後、次に浮かんだのは六部尚書だった。
(この内容を見たら誰に向けて書いているのか、悪夢の国試組の尚書たちにはすぐわかるだろうから反対はされないと思うけど…そうするとフワフワさんあたりから横槍が入りそうな…)
そこまで考えてから、玉蓮は小さな声を出した。
「私って…」
ガクッと項垂れたところに、頭上から「なんだ?」と声が降る。
聞き覚えのある声にパッと顔を上げると、思った人がそこいいた。
立ち上がり、礼をとる。
「たいそうな百面相をしていたが、私って、なんなんだ?」
「えっと、どこら辺からご覧になってましたか?」
「お前が懐からそれを出した時からだ」
ひょいと摘み上げられた。
「あっ!」と玉蓮が声を出した時には遅く、パラパラと中を見られてしまった。
「断りもなしに見るなんて、ひどいです!!」
玉蓮はぴょんと飛び上がって取り返そうとするが、意地悪にもそれはもっと高い位置に手を挙げられて届かなかった。
「なるほど、な…お前、嫁に行く予定があるのか?」
「えっ?そんなものありませんけど??それは、その…」
モゴモゴと玉蓮が言い淀む。
「だろうな、まだ子供だ。とすると、紅春麗か?」
「いえ?あぁ、そうですね、いつかはそうなるかもしれませんね?」
「と、すると、悠舜、か」
玉蓮はぱっと顔を上げた。
「随分と甘いことだが、着眼点は悪くない。おそらくあいつはあの王には休ませてなどもらえないだろうし、本人も休むつもりもないだろうが、いい機会だ」
(反対されるかと思ったけど、意外と賛成?)
少し驚いてから、それなら、とひらめいた。
「あの、これを上奏したいと考えています。通るかわかりませんが、回ってきた時に後押ししていただけませんか?」
「ふむ…先ほどの”私って”はそれを頼む相手がいないということに気づいたか?」
「はい…それもありますが…」
しょんぼりと玉蓮は項垂れた。
普通なら簡単に話もできない高位高官との面識は多いが、あくまでも”戸部侍郎・景柚梨の娘”としてだ。
自身はただの新人官吏でしかない。
最年少探花及第・高位高官の娘ということでやっかみも多く、親しくしている同期も限られていた。
(それでも、春麗ちゃんみたいに碧官吏と組んでバンバン上奏して実力を認めさせている人もいるけれど…)
今回の件は、悠舜のことがきっかけで思いついたことだった。
だが、未来の春麗や自分にも降りかかってくることもあり、近い人とは…
「今回は、組む相手がいない、ということに気づきまして…」
誰かと組んで出さなければいけない、というものではない。
だが、考えが偏ってないことを示すためにも、誰かと組んで法案を上奏するのが一般的だった。
「一人で出してもいいと思うが…そういうことなら、私を連名にするといい」
「は?」
キョトン、と玉蓮は目の前の男を見つめた。
皇毅はそれに気が付いていつも通り表情を動かさずに、だが確実に薄く笑った後、懐から筆を出し、表書きにサラサラと自分の名前を書いた。
「このまま中書令に持っていけ。もうすぐ暑くなる、あまり日向に長くいるな」
ぽん、と玉蓮の手に書翰を渡して、そのまま去っていく。
一瞬呆然としていた玉蓮は慌てて「ありがとうございました!」と後ろ姿に頭を下げた。