黄家家人たちの内緒話
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なにやら声がする、と思って華蘭が窓から外を見ると、庭院に灯りが普段より多く入れられていた。
少し先の四阿が特に明るい。
もしかして、と思い、室の灯を最小限に減らしておいた。
程なくして、鳳珠が春麗の手を引いて四阿へ向かって歩いてきたのが見えた。
「こちらで弾くのですか?」
「あぁ」
チラリと邸の華蘭がいるであろう室に目を向けてから、鳳珠が指示して春麗を座らせた。
おそらく、華蘭からは春麗がよく見えるだろう。
直角になる位置に座り、「曲は任せる」と伝えた。
春麗は少し考えた後、「悲恋ものは好きではなくて…」と言ってから、東湘記を弾き始めた。
鳳珠は気分よさそうに仮面を外して酒を片手に穏やかな表情で春麗を見て耳を傾けている。
曲が終わり、鳳珠は拍手をしてから「見事だった」と春麗に酒を促した。
「いただきます」と笑って口をつける。
美味しい、と小さく言ってから昊の月を見上げた。
「今日は月が綺麗ですわね」
「あぁ…月もだが…春麗も、綺麗だ。”秘密の琵琶姫”も着飾っていたのだろう?」
「フフ…あれは表に出ないことが前提でしたから、妓女のような格好はしていませんでしたよ。今日ぐらいな感じです」
「そうか…誰も知らない琵琶姫を独占できているのだな」
鳳珠はふっと笑った。
綺麗な顔に春麗は見惚れてから、「でも…」と小さく呟く。
「随分と琵琶姫にご執心で、妬けますわね」
「そうか?琵琶姫が春麗じゃなければ、興味は湧かないがな…」
「まぁ」
微笑んでから、鳳珠に酒を注ぐ。
キュッと飲み干してから「こういう夜もいいものだな」と呟いて、春麗の前髪に手を触れた。
「もう少し、何か弾きましょうか?」
「花代が高くつくか?」
「まぁ、鳳珠様ってば意地の悪い…」
クスクスと笑いながら、曲ともつかず手を動かしていたが、思いついたのかパッと表情を変えて、「では…」と言って奏で始めた。
「ほぅ…黄州記、か…懐かしいな…」
「鳳珠様、各州の名前がついた曲が全てあるのをご存知ですか?紅州記、藍州記、など…」
「そうらしいな。らしいな、というのは、話だけで他は宮城で催された宴会でわずかに聴いたぐらいで、全ては知らない。春麗は全て弾けるのか?」
「えぇ。姮娥楼はいろんな方が来られますからね、一通り。わたくし、以前から黄州記が一番好きですわ。音が綺麗なんです」
「そうか、それは嬉しいな…」
そこからは聴くことと弾くことに集中し始めたのか、二人の会話が途切れた。
琵琶の音色だけが庭に響いている。