Rayお礼SS
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※年末の話
(白銀の砂時計−1になる前)
「瑞蘭…この請求書…御館様は一体なにを買われたのかわかるか?」
家令は侍女頭を呼び、ぴらり、と一枚の紙切れを渡した。
「…!」
侍女頭の瑞蘭はそれを見て、さすがに声は上げなかったが目を大きく見開いて家令を見つめた。
邸の主人は特別倹約家というわけではないが、なにせ普段が仕事、仕事、仕事の仕事の鬼で、本や生活に必要なものは買っても、基本的に何か贅沢なものを買うことはしない。
調度品や庭院の植木や花などこだわりのあるものは別だが、最近は特に忙しすぎたのか、何か手を入れた様子もない。
「こんな高額なものを買われるのは私がきてからは初めてじゃないでしょうか…?」
「一度、商人を呼んでいたのは知っているのだが、その時は何も仰らなかったので聞きそびれてしまったのじゃ。で、品物とこの請求書が届いた」
「一体、どんなお品だったのですか?」
「簪じゃよ」
「簪!?」
「薔薇の花の簪じゃ」
瑞蘭は考える
10年以上前に麗しすぎる顔が理由でフラれたと聞いてから、悉く女の気配はない。
家柄と立場でお見合いは山のように来ているが、実施したことはほとんどなく、仕事の鬼。
女人の影といえば、一年前の夏に大挙して押しかけてきた人たちのうちの一人が女人だったのと、そのあとの冬にお花を持ってどこかにお見舞いに行ったこと、それからこの夏前に初の女人官吏で部下だという姫を連れてきて住まわせただけ…
「去年の夏のお客様はあれきり見てないですよね?そうすると、やはり姫様でしょうか…?」
「瑞蘭もそう思うか…」
「仮に、姫様でないとすると、それも大変なことになりますよ!あんな真面目な御館様に女人の醜聞とか嫌なんですけど!」
多少すっとんだ考えの瑞蘭に、家令は苦笑いする。
「御館様に限ってそれはなかろうて…瑞蘭からみてお二人はどんな感じじゃ?」
「先日、お二人でお出かけになられて…あぁ、あの膝枕のときです、あれ以降は特に変わった様子は…でも、普段から御館様は姫様を気にかけていらっしゃいますし、姫様も何やかやと御館様のお世話は手伝ってくださいますからね」
「たしかに、それはそうじゃな…特に今のところ進展はなし、か…姫様なら今までのどの奥方候補より御館様の素顔への免疫、人柄、家柄、どれをとっても一番だ…しかし姫様は紅家直系の姫…引く手数多じゃろうて…」
「いずれにしても、御館様にしっかり頑張っていただくしか…ありませんね」
よくいえば真面目、悪くいえば奥手な主人に多少の不安を持ちつつ、家人たちはため息をついた。
2021.11.3〜 感謝を込めて