母のお告げ
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春麗が黄州州尹として赴任する直前、いつものように馬に揺られて龍山にある母のお墓参りに行くことにした。
そんなことをすっかり失念しかかっていた春麗だったが、鳳珠から「向こうに行くとしばらく行けないから行っておいたほうがいい」と言われて時間を作ったのだった。
お墓参りの定番
いつもの仮面姿ではなく、今日も綾衣で顔の下半分を覆っているだけである。
陽の光の下で鳳珠の顔を至近距離で見られる数少ない機会のため、春麗はこの時間が好きだった。
簡単に掃除をして、手を合わせる。
式布を敷いて持ってきたお茶を入れてから、春麗は二胡を取り出して弾きはじめた。
今日も、いつもの、薔薇姫。
(義母上…)
(なんじゃ、そなた、頼りない声をしているの。春麗と離れるのが不安か?)
クスクスと笑いながら薔君の声が聞こえてきた。
(いえ、不安というよりは)
(寂しいかぇ?)
またクスクスと笑われる。
随分と情けないと思われたに違いない、と鳳珠は心の中でため息をついてからお茶を一口飲んだ。
たまに表情が変わる鳳珠を、春麗が時々不思議そうに見る。
(春麗の方がそなたと離れることを不安がっておるぞ、そなたがしっかりしていないでどうするのじゃ)
(あまり、それを出しませんから)
(あの子が自分の想いを出さないのは昔からじゃ。あぁ、だが鳳珠殿の前では違ったかの?)
薔君は春麗が小さい時のことを思い出したのか(大泣きしておったな)と呟いた。
(まぁ、一生の別れではないのじゃ、笑って送り出してあげることじゃな)
ふわり、と風が吹く。
(あぁ、それと…春麗に何かあったら、葉先生を頼るといい。あやつのことじゃ、必ず助けになる)
(それは…何か危険なことが起こると?)
(どうじゃろうなぁ…まぁ、あやつに任せれば良い、ということじゃ)
ふむ、と顎に手を当てて鳳珠は考えた。
貴陽にいる葉先生に、黄州に行ってもらう事態が起こる、ということだろうか。
(ま、そんなに難しく考えなくても大丈夫じゃ。婿殿、春麗を頼んだぞよ)
気がついたら曲も終わりに差し掛かっていた。
(私一人でも来ます。その時にも話せますか?)
最後の質問には、そよりともう一度風が吹いただけだった。
おしまい