黄家お宅訪問
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春麗が目をとめた絵は、唯一の人物画。
(この方は・・・)
胸の奥が苦しくなるような、言葉にできない思いがよぎり、春麗は胸の前でキュッと手を握り締めた。
(たった一枚の人物画。この方は、鳳珠様の・・・)
「とても可愛らしい方ですね。そして…鳳珠様の、大切な、方なのですね?」
まだ若い少女が微笑む姿が描かれている。
今にも絵から飛び出て微笑みそうな。
(鳳珠様の初恋の方かしら?それとも、婚約者だった、とか?)
何も言わずに絵を手に取った鳳珠の手元を見ながら、想像だけが先走る。
どんな表情でこの絵を見ているのか、自分の見たことのないような視線を向けているのか、春麗は怖くて手元から目を逸らせずにいた。
ややあって、ふぅ、と鳳珠のため息が聞こえた。
「そうだな…大切、といえば大切。特別、といえば特別だ。なぜなら…」
下を向いてしまっている春麗が何やら良からぬことを考えているのは鳳珠にはわかっていた。
少しぐらい嫉妬してくれているならこんなに嬉しいことはない、と眉を上げてから、春麗の顎に手をかけてこちらを向かせた。
案の定、瞳が不安に揺れている。
「何か心配しているのか?」
「いえ…」
「そうか…今見ても、我ながらうまく描けている」
「・・・」
「どうした、春麗?」
鳳珠はわかっていながら春麗を促しつつ、その絵にまた柔らかい視線を向けた。
「呆れないでくださいます?」
「あぁ」
「とてもこの絵の方を大切に思われているのだろうな、と…そして絵姿でも、鳳珠様がそのような視線を向けられるのが、ほんの少し心が痛いです…お気持ちが見えないから、なおさら…」
春麗は小さく震えながら、弱々しく声を出した。
鳳珠は軽く春麗の髪を撫でながら、クスッと笑った。
「やきもち、か?いつも私が春麗を追ってばかりだと思っていたから、正直嬉しい。この絵の人も、そう思ってくれるだろう」
「えっ?」
思いもよらない言葉に、春麗はパチパチと瞬きをして鳳珠を見た。
絵を見つめていた時より数倍、暖かい視線が自分に注がれている。
「この人とは、もう、二度と会えないが…」
春麗の表情がまた変わった。
「誰かに、似ていると思わないか?」
「?」
クツクツと鳳珠は笑う。
「私の姉、だ。母によく似ているだろう?あぁ、少し鼻が低いところが違うけどな。美貌を買われて十五ぐらいで自分の親より年上の先の藍家の当主の妻として政略結婚させられることになって、藍州へ行った。聞いた話ではすぐに子ができたが生まれることなくそのまま共に亡くなってしまった、らしいが…」
「そん、な…」
「子をなすにはまだ若すぎたのかもしれないし、何かあったのか…それは闇の中だ。ただ、婚姻自体も当主同士で決めたこと、
「・・・」
「亡くなった後、父が藍州へは行ったが、もちろん葬儀は終わった後で、墓を見せられただけと言っていた。そして、姉のものは何一つ返ってこなかった。だから実は黄家は藍家とはいい関係ではない。もしかしたら生きているかもしれないと何度も思ったし、父たちに聞いてもみたが、真相は不明だ。この絵は…姉がこの邸を出る直前に描いたものだ」
「お義姉様…」
春麗はそっと絵姿の少女に手を差し伸べて目を閉じた。
その時、二人には遠くに明るい笑い声が聞こえたような気がした。
鳳珠と春麗は顔を見合わせてあたりを見たが、どこを見回しても他に人はおらず、声の主と思しき少女が絵の中で微笑んでいただけだった。