新婚旅行
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ちゃぽん、とお湯の音がして、春麗は後ろから鳳珠に抱きしめられた。
「いつものようにこうしていれば恥ずかしくないだろう?」
耳元で鳳珠の甘い声がする。
「もぅっ」
クスリと笑った声がしてから、春麗の頬に後ろから口づけが落ちた。
月を見ながら一緒に風呂に入りたい、という鳳珠の
それでも、邸の閉鎖した空間と、旅先の露天風呂ではやはり違うというものだ。
もっとも、邸の方が人がいて恥ずかしいとは思うのだが。
鳳珠の身体を洗う分にはいいが、いざ自分がされると春麗はまた恥ずかしがってもじもじしていたがそのうちに終わり、そのまままた抱えられて湯船に入ったところである。
少し慣れてきた頃、春麗は鳳珠の腕を解いて、湯の中を外に向かった端の方まで移動して下を覗き込んだ。
「鳳珠様、ご覧になって?湖面に月が綺麗に映っていますわ」
下からは見えない、というのを確認してから、手すりをつかんで立ち上がる。
「湖と森の境目が見えなくなるかと思ったけれど、月明かりが光っているのでわかりますわね」
月明かりの下に春麗の白い肢体がぼうっと浮かび上がり、鳳珠は息を呑んだ。
春麗はそっと白い腕を柵の外に伸ばし、月に向かって腕を上げた。
弾かれたお湯がキラキラと月明かりに光って、鳳珠には幻想的な絵のように見えた。
わずかの間、それを眺めていたが、徐にざばっと音を立てて鳳珠は立ち上がり、後ろから春麗を抱きしめた。
「…鳳珠さ、ま??」
不思議そうな表情で春麗は鳳珠に呼びかけ、腕をそっと下ろして肩口に顔を埋める鳳珠の頭に手を添えた。
「どうなさったの?」
「…さない」
「え?」
「月には、返さない、どこにも行くな、春麗…」
「鳳珠様?」
春麗はもう一度鳳珠の腕を解いて身体の向きを反転させて鳳珠の髪の毛をそっと両手でかき分けて、頬に手を添えて微笑んだ。
「おかしな鳳珠様。わたくしのいるところは鳳珠様のところ以外にありませんのに…」
「本当か?」
「えぇ」
鳳珠はもう一度腕に力を込めて春麗を抱きしめて、湯の中にずぶずぶと入って、膝の上に乗せた。
「春麗が…月から降りてきた天女に見えた。手を伸ばしたら、迎えが来て月に帰ってしまうかと」
「まぁ」
ぱちぱち、と春麗は瞬きをして首を傾げた。
「昔…後宮と外朝の間で偶然会った時…覚えているか?お前が琵琶を弾いていたときだ」
「えぇ、もちろん。その時がどうかされました?」
「その時も、月から降りてきた天女みたいだ、と思ったんだ」
鳳珠はぎゅ、っと春麗を抱く腕に力を入れた。
「だから、渡さないようにしっかり抱きしめた」
少し子供っぽい、拗ねたような声音になった鳳珠に、春麗は胸がキュンとなって微笑んだ。
「どこにも行きませんわ。だって…」
「ん?」
「わたくしが誰よりおそばにいたいのは鳳珠様のところだけですもの。他に行くところはありません。だから、離さないでくださいね」
鳳珠の首に腕を巻き付けて、キュッと抱きついてから、そっと頬に口付けた。