新婚旅行
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕暮れ時が近づいた頃に着いた黄家が新しく始めた宿というのは、それは豪奢なところだった。
春麗はポカンと口を開けて建物を見る。
(四階建?胡蝶姐さんのところみたい!)
「聞いていたが、すごいな」
鳳珠も小さく感想を漏らした。
こんなところを使うのは七家の中でも金持ちの紅、藍、黄家ぐらいではないだろうか?と思ったが敢えてそれは口に出さなかった。
商売の勘は抜群の黄家が仕掛けるということは、勝算があるのだろう。
「お待ちしておりました」
従業員がずらりと並んで出迎える。
鳳珠の仮面姿に怯むこともなく、地元の雇用が中心と聞いたが、身なりも躾もきちんとされている。
「よろしく頼む」
広間へ案内され、果実水とお茶、茶菓子が出された。
代表と思しき人が一歩前に出て挨拶した。
「お二方のことは伺っております。ゆっくりお過ごしになりたいとのことですので、私どもからのお声がけは最低限にさせていただくつもりですが、気になったことがありましたら、忌憚なくおっしゃってください」
そうなの?と春麗が鳳珠を見たが、黙って頷いただけだった。
「本日ご利用いただくのは最上階になり、室は一つだけです。その下の2つの階には二室ずつ設えています。この建物と別に、他のお客様と会わないように作られている離れもござます。そちらにも逗留していただきたいので、明後日は離れの方にお泊まりいただいて、どちらかお好きな方を最終日に選んでいただけければと思います。いずれの室にも温泉が中と外の二つずつ、寝台も二つずつ設えています。ご逗留の間は、他のお客様はいらっしゃいません」
館内の様子を表した絵を見せながら説明される。
「上の階の湯はどのようにしてるのだ?」
「お客様の室と別に、従業員がさまざまな用意をする裏方の室が設けられています。そこに温泉の湯をあげ、温めてから室に流しています」
「なるほどな」
「お食事はお室でも、こちらの階でもお好きな方を選んでください。下でも、午後はお茶やお菓子などを召し上がっていただくことができます。こちらからそのまま湖畔の散策にも行けますよ」
指を挿された方を見ると、露台のようになって机が並んでいる先に、木々の間から湖が少し見えた。
春麗がパァッと表情を明るくする。
その様子を見た宿の主人…支配人といった方がいいだろうか、彼は「この時間は湖に陽が当たって綺麗ですよ」と付け加えた。
ひと段落した頃、最上階の室に案内された。
「飲み物など、滞在中に必要なものは全て室内に揃っていますが、足りないものがありましたら、こちらの札を扉の外側にかけていただければお伺いにあがります。お食事の時間も決まっているわけではありませんので、この札を同じようにかけておいていただければ程なく伺いにまいります。こちらの
「わかりましたわ」
「お預かりした荷物は全て入れてあります。もしお食事も召し上がられるようでしたら、今お申し付けいただければご希望の時間にお持ちしますが?」
鳳珠はペラペラと
かしこまりました、と案内の者が出ていく。
「なんだかすごく豪華で気後れしてしまいますわ」
春麗はキョロキョロしながら小さく言った。
「室内に湯が二ヶ所ある、と言っていたな。見てみよう」
鳳珠が仮面を外して立ち上がり春麗の手をとって立たせる。
すっと髪を撫でてそのまま手を引いて室内を歩き出した。
「お外のお風呂は外から丸見えですわね?」
「こんな上まで見えないだろう」
フッと鳳珠は笑って「心配ない」と付け加えた。
目の前には先ほど話していた湖と森の景色が広がっていた。
「陽の当たり具合からして東向きのようだな」
視線の先は薄暗い景色が広がり始めていた。