二人だけの秘密
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(薔薇姫、か。”母様の曲”とはどういう意味なのだろうか…確か母上は薔君殿と仰ったか…)
鳳珠が聴きながら考えていると、フフッと笑い声が聞こえたような気がした。
ハッとして顔を上げるが、静かに曲を奏でている春麗が目の前にいるだけだ。
(今のは…?)
”其方にも妾の声が聞こえたか…春麗は良い背の君に出会えて幸せじゃ。頼んだぞよ、鳳珠殿”
ふわりとした風が吹いた。
(やはり、義母上!?)
鳳珠はパチパチと瞬きをして、春麗と、その斜め後ろにある薔君の墓を見つめていると、やがて曲は終わった。
「こんな見事な腕前なのに、弾かないとは勿体無いな…」
鳳珠の感想を嬉しそうに聞いた春麗は
「弾かない理由がもう一つあるんです」
と口を開いた。
(ふむ…もしかして今のが…)
鳳珠はなんとなく答えに行き当たった気がしたが、そのまま黙って茶器に口をつけた。
「父様が…姿がないのに声だけする、と言っていて。わたくしの二胡の音の方が、秀麗より母に似ているから?って聞いたんだけど、声がする、って言って…父の幻聴だと思いますけどね、でも確かに二胡の音はわたくしの方が似ているので、それで思い出してしまう、ということが言いたかったんだと思いますわ」
少ししょんぼりした顔で春麗は言った。
鳳珠は大きく目を見張る。
「それは…邵可殿の言われたことは本当だと思う…半信半疑だったんだが、春麗が二胡を弾いている間に義母上のことを考えていたら、私にも声が聞こえた…」
「えっっ?そうなんですか?母はなんて??」
「”其方にも妾の声が聞こえたか…”と」
「それ、まさに母の口調ですわ!」
「それから、”春麗は良い背の君に出会えて幸せじゃ。頼んだぞよ、鳳珠殿”、と…」
「母様…そんな、もぅ…」
見れば春麗は真っ赤になっていた。
「どうした?大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですわ。母様にそんなふうに言われて、恥ずかしくなってしまっただけです」
「そうか…だが、春麗がさっき言った通り、春麗の二胡は義母上と春麗の秘密だったのだろう?そこに私も入れてもらえた、というのも嬉しいし、私にも声が聞こえたとなれば、義母上にも認められた気がしてそれも嬉しいものだな」
「まぁ、母様が鳳珠様を認めないなんてありませんわ!わたくしには…勿体無い旦那様、です…」
春麗は赤くなって俯きながら小さな声で告げたのを見て、鳳珠は心の底から満足げに微笑んだ。
<おしまい>