名前の由来
名前設定
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「春麗の名前の由来か…」
国試の結果が出て今日は合格祝いの会、という日に早めに到着した玉蓮はお茶を出してもらいながら尋ねたのを、鳳珠が聞き返した。
向かい側に座る黎深を見ると、”口を開いたらコロス”という圧を感じたので、茶を飲みながら誤魔化す。
そしてまだ若い頃、黎深が不満げにこぼしたことがあったのを鳳珠は思い出した。
確か、進士の頃に何度か邵可邸に遊びに行った時に、悠舜が「二人ともいい名前ですね」と口を開いた時に、黎深が忌々しげに「春麗の前でその話をするな」と話をぶった斬った。
黎深が話をぶった斬るのはいつものことだが、あの時の様子にただならぬものを感じて、「春麗というのは綺麗な名前でいいのではないか?」と言ったら、その時は「そうだな」と満足げな表情をしていたが…
その後、少し詳しい話を聞いて悠舜も自分も春麗が気の毒になったのは二人の秘密だ。
今になって思えば、生まれた時から言葉があった春麗はそれを知っているだろうから、黎深が止めたというのもわかる。
きっとあまり言いたくはないだろうと様子を見るが、春麗の表情からは何も読み取れなかった。
ちらりと黎深と鳳珠の視線を感じた春麗は、心の中でため息をついた。
(この話はあまりしたくはない…けど、きっと鳳珠様は黎深叔父様から聞いて知っている…)
「わたくしの、ねぇ。春に生まれた麗しい子になるように、とかなんとか聞きましたわ」
春麗も茶に手を伸ばし一口飲んでから再度口を開いた。
「でもねぇ…適当につけられた名前で、適当につけられた理由なのよ」
「そんなことないでしょ?だって、双子さんは秀麗さんでしょ?」
「そ。秀でた麗しい娘になりますようにって父様の願いが込められた名前。先に名前が決まったのも秀麗よ。わたくしのは、春に生まれたから春麗でいいんじゃないかって、ついでに」
自嘲気味に微笑んだ春麗を見て、黎深が声を上げた。
「春麗、違う、違うんだよ。春のように穏やかな人生が送れるようにって意味が込められているんだ」
「・・・それ、叔父様が後付けでつけてくださった理由でしょう?」
(やっぱりバレてたか…)
黎深はほんの少し表情を動かして眉を下げたが、それは鳳珠にも春麗にもわかってしまった。
取り繕うように、玉蓮に話を振る。
「はい、父様から鳳珠様に名前を選んでもらったって聞いたので気になってたんです」
「あぁ、そういうこと、か…柚梨からいくつか見せられて選んだが、決めたのは柚梨達だぞ?」
(言わんとすることはわからなくもないけど、玉蓮姫はどうしてこれを選んだかが知りたいようね)
春麗は口を挟まずにお茶に手をつけて静観していた。
鳳珠は少し遠くを見て、当時の記憶を呼び戻しているようだった。
「見せてもらった中で、一番綺麗な名前だと思った、というのが本音だな。それに、お前の母親は玉英だし、黄一族の女性には玉がつく女人が比較的多い。本家ほどの決まりはないが、なぜそうなったんだろうな?」
「でも、私は景家の人間なのに」
玉蓮はすこしだけしょんぼりとした。
「あぁ、それは…確かに景家の長姫だが、お前の母親の娘…黄玉英の娘でもあることもどこかに忍ばせたい、という柚梨の思いが入っていると聞いている。あいつはそういうところは細やかに気が回るからな」
玉蓮の表情がぱああっと明るくなり、鳳珠と春麗は目を合わせて微笑んだ。
ふと自分と春麗の子ができたらどういう名前にするだろうか、と鳳珠は頭の片隅で思った。