花は紫宮に咲く−3
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戸部に戻ると、机の上は書簡の小さな山で埋まっていた。
「今日の分だ。夏にやっていたことの延長もあるからこれぐらいはできるだろう」
(うん、お仕事には容赦ないですわね…)
「やってみます」
席につき、書翰の内容を確認する。
手早くできそうな順に並べ直し、早速手をつけ始めた。
結構いい速度で処理をしていたが、最後に回した重そうな案件でやはり引っかかった。
中央の税収は桁数が地方とは異なるが計算自体はやることとして変わらない。
だが、その配分について、まるで知識がない。
煮詰まってきたので外を見ると、お茶休憩の時間が近づいている感じだった。
少し早いが気分転換も兼ねて立ち上がり、終わった書翰を所定の机に並べてから、お茶の準備に入る。
黄尚書と景侍郎は残された書翰を見て、顔を見合わせた。
最後の書翰ははじめから春麗には荷が重いとわかりながら、景侍郎の反対を押し切り黄尚書が案件として載せたものだった。
お茶と自分が持ってきたお菓子を尚書と侍郎に出してから
戸部官に配りながら、どこから手をつけるか、誰に聞くかを考えていた。
「難しい顔をしておるの」
夏に顔見知りになった碧官吏が声を掛ける。
「あ、出てましたか、すみません」
にっこり笑ってお茶を置く。
「わからんことがあったら、わしらに聞いてくれて構わんからな。戸部期待の新人じゃ。育てるのもわしらの役目じゃ。尚書にいじめられたらいつでも言うんじゃぞ」
「…ありがとうございます」
最後に、自分の机に置いて、座る。
両手で茶杯を持ちぼーっと考えていると、
「少し疲れましたか?」
と景侍郎から声がかかった。
「そうですね…疲れると思って甘めのお菓子を用意したんですけど、ちょっと集中しすぎてしまったみたいです」
答えになっているようでなっていない返事をして、へらっと笑う
「あ、景侍郎、後で資料室の鍵をお借りしていいですか?ちょっとわからないところがあったので調べようと思いまして」
「いいですけど、どのあたりですか?」
「これなんですけど…税収の内訳と配分の知識が全然なくて」
「え?これ?」
中央をやらせる、とは聞いていたが、いきなりこんな難しいものを…と景侍郎は眉間に皺を寄せて、尚書を見る。
「後で説明しますよ、すぐにできるものではないですから、今日は準備だけしておいて明日以降にしましょう。私が教えますし、いない時は碧官吏に聞くといいですよ。今は少し休憩しましょう」
とお茶に促した。
「秀くんたちは明日出立ですよね?寂しくなりますね」
「ええ、今日は送別会をやるんです。正直、心配の方が大きいですけれど…燕青殿に悠舜様への手紙を託します」
鳳珠の方を向いて伝える
「あぁ、私も手紙を出した。ところで、悠舜は元気にしているのか?燕青に聞こうかと思ったがなんとなく聞きそびれてしまった」
「えぇ、お元気そうですよ。先日も燕青が手紙を持ってきてくれました。お仕事はなかなか大変そうなんですけれど…」
遠くを見つめて、顔を顰める。
「春麗ちゃん?」
ハッとすると景侍郎が心配そうにのぞきこんできた。
「あ、なんでもないです。」
鳳珠は少し考えて
「春麗、秀麗にこれを」
と木簡を渡す。
「黄家直紋の”鴛鴦彩花”の通行手形だ。紅家や藍家のものには劣るが、全国どこでも照合可能なので、役に立つ時があるだろう、秀麗へ渡してくれ。気をつけて行ってくるように、と。」
「お心遣いいただきまして…ありがとうございます!今晩、必ず」
嬉しそうに大切に両手で持ってしばらく眺めた後、ゆっくり懐にしまった。